ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 到着日してすぐに妻はひとりうんうんとベッドで休む新婚生活スタートとなってしまった。食欲もなかったので、ここ四日ほど真紘は冷蔵庫にある水分と土産物の菓子や瑠樹が帰りに買ってきたパティスリーでしのいでいた。
 自宅周辺の地理も何もわからないから買い出しに出ることもできず、アパートメント内のあるもので耐え忍んでいたわけなのだが……

 まさか、コンシュルジュという手段があったとは!
 さすが、高級サービスアパートメントである。

 この提案に目を大きくして、真紘はベッドから瑠樹を見上げる。その顔がおかしかったのか、くすりと瑠樹が笑う。

 「今日一日寝ていれば、大丈夫そうだな。いってくるよ」
 「あ、はい。あの、いってらしゃい」

 おずおずと真紘が見送りの挨拶をすれば、スタスタと瑠樹は部屋を出ていこうとする。
 だが、その足が止まる。くるりと瑠樹は振り返り、プツっと何かをちぎるような音がして、真紘の枕元に戻ってきた。

 「今日は出る前に真紘が起きていたから、寝顔でない顔をみることできた。本当はいってらっしゃいのキスのひとつもほしいところなんだけど……」
 出勤時刻が迫っているのに、駄々っ子のように瑠樹がいう。こんな要望、新婚夫婦ならではの甘いもの。
 「ダメだよ、そんなの。感染症だったら、うつっちゃう。ダメな妻だと、瑠樹さんの社での評判が悪くなっちゃうよ」
 「そうだな。俺の奥様は、お厳しい」

 残念といいながらも瑠樹は手に取ったものを、そっと真昼の唇の上にのせた。
 それは、ふわっとした軽くて薄いもの。色は白だ。

 それは何? と思った瞬間だった。
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