ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 身を起こして部屋をぐるっと 見渡せば、瑠樹の出ていった扉のそばに蘭のアレンジメントが鎮座していた。
 それは胡蝶蘭以外にもグリーンが添えられて、大きくて華やかなリボンがかけられている。ひと目みてわかる、お祝いの花である。

 胡蝶蘭なんて、男の瑠樹が買ってくるにしては不思議な花である。買ってきていないとしたら、もらってきたのだろう。
 でももらってきたとしても、胡蝶蘭って渋くないか?

 真紘にすれば、胡蝶蘭は開店祝いや会社のお祝い事で使われるイメージだ。あとは選挙かなとも思う。
 どうして蘭なんだろうと思いながら、摘まんだ花びらとアレンジメントを見比べると一輪だけ歪な花がある。
 なんと瑠樹は、惜しげもなく胡蝶蘭の花びらを千切っていたのだった。高価な花に対して何の躊躇もない。金持ちはやることは、どうもダイナミックすぎる。

 あきれながらも、感染症のことを気にして瑠樹は直接真紘にキスをしなかったと気づく。

 キスをねだって、でもできない。ならせめて……

 きっとそう考えて、唇と唇の間に花びら一枚を挟み込んでキスをしたのだ。
 そこで選ばれたのが、たまたまそばにあった蘭の花。大きくて、ほどほどの厚みがあって、それを使えばロマンチックにもなる。
 蘭の花びら越しのキスをして、夫は出勤したのだった。

 (もう瑠樹さんったら……)

 いま一度、夫からの「いってらっしゃいのキス」のことを思い出せば、ほんのりと真紘は少し赤くなる。
 こうして本日も、瑠樹と真紘の一日がはじまった。
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