一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「あの女、なんなの。ほんと、自分勝手だよね」

 スカートが汚れるとか、そんなことを気にしている心の余裕などない。
 関宮先輩の言葉に返事をしなければならないとわかっているのに、声がうまく出てこなくて……。

「星奈さん。大丈夫?」

 私がいつまで経っても返事をしないことを、不安に思ったのだろう。
 振り返った彼は私と目線を合わせるためにその場へしゃがみ込むと、瞳を細めて私を見つめる。

「ぁ……」

 その表情は、私を心の底から心配していなければ見られないものでーー。

 いつもと変わらぬ優しい声音と態度に、安心したのだろう。
 私の両目からは堪えていた涙が、ポタポタと頬を伝って流れ落ちた。

「関宮、先輩……っ」

 いい年して泣くなんて、みっともないとわかっているのに。
 彼が妹に冷たく言い放った言葉が脳裏から離れないのだ。

『ほんと目障り。さっさと消えて』

 ああした言葉がもしも自分に向けられたらと思うだけで、恐ろしくて溜まらなかった。

 関宮先輩に、迷惑をかけたいわけではない。
 彼に弱い人間だと、思われたくなかったのに。
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