敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
資料配りや質問者へのマイクの受け渡しなど、裏方として参加する吉川さんも「いつも通りに」と私の肩を叩いてくれた。

そんなやり取りを交わし、会見の時間を迎える。彼らとともに記者の待ちかまえる会見場に足を踏み入れた。

激しいフラッシュ。ぽつぽつと漏れ聞こえてくる野次。こんなに多くの奇異の目に晒されるのは初めてだ。

大丈夫、私は作家の石楠花みどり。そう自身に言い聞かせ演じる心構えをする。

自然と背筋が伸びて、いつもの人当たりのいい笑顔が浮かんだ。私、作家だけじゃなくて女優の素質もあるのかもしれない。

「さすがです、先生」と安心したような顔になる編集長。ふたりで檀上中央に立ち一礼したあと、テーブルに腰かける。

その横に誓野さんは立ち、マイクを握った。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。これより北桜出版新作発表会見を始めます。ですがその前に、皆様から多くご質問をいただいている週刊誌の記事について説明させていただきたいと存じます。結論から申し上げますと、この記事は事実無根です」

檀上の脇にある縦長モニターに記事の写真が映る。私じゃない、偽者の石楠花みどりの写真だ。

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