いつも君のとなりで
そして、お昼休憩の時間。
わたしは休憩に入る前に処理が済んだ伝票を資料保管室へ持って行こうとした。
すると、資料保管室へ行く途中にあるエレベーター前から広人と花村さんがエレベーター待ちをしながら、会話をしているのが聞こえてきた。
「無事に別れられて良かったですね!」
「うん、すんなりで良かったよ。もうあいつには、未練も何も無いから安心して?」
「本当に未練ないですかぁ?」
「無い無い!だってあいつ、何か手足に汗かく病気あってさ、触られると気持ち悪いんだよ。だから、一応3年付き合ってたけど、それが嫌で2年はレスだったし。しかも、俺よりも出世して主任やってるんだよ?男のプライド傷付ける女となんて一緒に居たくないよ。」
広人の言葉を聞いて、わたしは崖の上から突き落とされた気分になった。
"触れると気持ち悪い"
実はわたしは、多汗症という病気を患っており、発汗をコントロールする神経に異常がある為、普通の人よりも手足に多くの汗をかいてしまうのだ。
わたしは重度の方で、季節に関わらず大量に汗をかいてしまう。
黙っていれば、手を洗ったあとかのように滴り落ちる程の汗が出てくるのだ。
そのことは、広人と付き合い始めにちゃんと説明して、その時の広人は「気にしないよ。」と言ってくれた。
しかし、次第にわたしに触れなくなっていき、その原因がわたしの多汗症のせいだったなんて、、、ショックだった。
それに、"男のプライドを傷付ける女"って、何?
わたしが人事部と経理部の両方を兼任する総務課の主任になったのは、辞令があったからで、広人のプライドを傷付ける為に仕事をしてたわけじゃないのに、、、
わたしは資料保管室に持って行くはずだった伝票を持ったまま、総務課へ引き返したのだった。