アフターアーダン 闇堕ち英雄の後日譚
虚像と実像
「そのまま落ちれば良かったのに」
アルマが英雄アーダンの銅像をさすりながら俺に言った。
「というか不合格よね。失格寄りな合格とも言えるけど自力で成し遂げていない。
崖から降りて村に帰っても良かったんじゃない? そうしたらこんな生き恥を晒さずに生涯を終えられたのに」
「そうかもしれないな……」
俺の呟きにアルマは顔をしかめ銅像を蹴ろうとしたが、何故かやめた。
俺じゃないのを蹴っても仕方がないというのか?
ここはグラン・ベルンの首都バーハラのとある広場。
勇者ジークに関わったものたちの銅像があり、誰もがそれを見て触り語りかけることができるようになっている。
「第二次聖戦を終えた後にグラン・ベルン王は非業の死を遂げた父君の名誉を回復すべく、各地に銅像を立てまた各施設に肖像画を掲げさせました」
「つまりこれはその時の政策の結果と言うことか」
ラムザの説明を受けながら俺は自分の名のついた銅像を見ながら応えた。
名前だけは一緒であるも顔から体つきまで全部違う、自分の像。
虚像、である。
「こっちのほうがカッコいいわよね」
隣に立つアルマが溜息まじりに俺の腕をつつく。
「銅像はいかにも屈強な男って感じがして英雄らしくていいわ。
厚い胸板に太い二の腕そして凛々しい眉毛に闘志あふれる掘り深きお顔。
戦士の中の戦士で素敵。それに比べて、ね。
この細い腕にうっすい胸板そして覇気のないその浅めなお面、はぁ、いやになっちゃう。同じなのは背丈だけなの~?」
アルマの銅像への絶賛を聞きながら俺は眉は小刻みに震える。
自分を褒めているのに褒めてなく、むしろ徹底的に貶している奇妙なやり方に意地の悪さを感じていた。
虚像が讃えられ実像が貶されるとはいかなる不条理であろうか?
作った奴に文句を言って貰いたい。
「いや、そっちのは妄想の産物だろうが。誰だこんな実物と違うのを俺だとしたのは!」
「ざーんねんでした! 御婆様とのことですってよ」
「えっ! なっなんでだよオヴェリアちゃん!」
あまりに意外なことに俺が絶叫し固まりながら像と目を合わせ、思い出す。
もっと強くなってくださいという注文の声を。何度も聞いた声が脳内で甦る。
確かに彼女は自分の強さを強く願っていたが、その願いを具現化するとこうなるのか?
一目見ただけで了解できる骨格が違う別人。
いくら自分が鍛えてもこうはならんだろ?
同じなのは身長ぐらいだぞと俺が戸惑っているとラムザが言った。
「まぁそこは御婆様だけではなくてね色々な人の意見を聴いて、ですね。
特にこちらの王様のご要望もあったようです。初期の頃から父に仕えし地元の三人の戦士。どうやら三人とも剣士でしたようですが、それではキャラ分けができず覚えにくく、物語的には映えなくつまらないでしょうし。
だからノイスは力の剣でアレクは技の剣そしてアーダンさんは守りの剣である盾役といった剣士となったのでしょう」
「つまらないってなんだその判断基準は」
「じゃあなによあんた。これが不服だってこと?」
アルマは虚像の頭を撫でながらその声にアーダンは口を閉じた。不服?
英雄として残してくれたこと……そう俺はとにかくあの二人を姿を銅像として残してくれたことに関しては。
「……いや、そうじゃない。ノイスとアレクの件は感謝するし、彼女がそういう風に俺の姿を残したかったのなら、俺からしたら何も言うことはない。こちらは何かを言う権利なんてないのだからな」
「いやいやありますって。まぁハハッご当人からの許可が下りましたね。
なんといっても第一次聖戦は生還者が極めて少ないですから、グラン・ベルン王が御婆様に御記憶に頼らざるを得なかったようですよ。それでまぁ記憶の美化が施されまして」
「彼女は幾分かロマンチックだったからな」
「十代半ばの乙女なんだからその当時の若かりし頃の記憶なんて年をとったら夢見がちに脚色されるわよ。
私もあんたを実際に見てまるで違うからすごく納得したわ」
「御婆様は優男系はあまりお好みではなかったようですしね。
だからグラン・ベルンの戦士たちは強めな男系となった感じですね。
まぁこのようなものがここ首都にはいくらでもあり各々の村にもあるそうですよ。
あなたたちはそう歴史というか伝説なのです」
「伝説か……」
俺はその伝説上の存在である銅像を見ながらレストランでの壁画も思い出す。
教えてもらった伝説とは、こうだ。
立ち上がった勇者ジークのもとに参じる三人の戦士。
同郷の親友同士の技のアレク、力のノイス、そして硬さのアーダン。
それぞれの個性を生かし魔王軍との戦いにおいて最後まで活躍し……というのが公式的な歴史。
だが、それは違う。微妙にというか大きく違うと俺は首を振る。
「俺は硬くもないし技もないし力もない、戦士未満だったんだよ。少しだけ稽古をつけてもらったぐらいの腕前だ。
それに比べて二人は真の戦士だったよ。力も技もありそして硬い男だ。
二人こそライバル同士であり親友ともいえたが俺はその後ろにいるおまけみたいなもんだ。
後方支援がせいぜいのな。彼らは英雄的な使命を果たした一方で俺は二人の間に挟まることはない。
この関係は本来はコンビであってトリオとかではない。
俺の銅像はあったとしてももっと小さくかつ彼らの傍にあってはならない。
事実は史実とは大きく異なるんだ」
「だけどもそう残したかった人がいた、少なくとも御婆様はそうであり、そう残したかった」
アルマが俺の正面に立ちそう告げる。
「どうしてだろうな。俺はこういう男でもそういった人間関係でも無かったのに。彼女だってそのことは承知していたはずだ」
「御婆様から見たらたぶんそうだったのよ」
「そこが、わからない」
「自分の見方が本当に正しいのかだって分からないじゃない」
その言葉に向かってアーダンは一歩前に出る。
「当の本人が言っているのにか?」
「たとえ当の本人が言っていてもよ。だってあんたは自分という存在をロクに把握していないじゃないの」
アルマも俺を見上げ双方で以って睨みあう。
「俺はこんな男じゃないと、あんたはそんな男ではないという二つの意見がぶつかった場合は、
どちらが正しいかは分からないわ。それともなに? あんたはそこまで自分について自信があるわけ?
言い切れないわよね? ましてや過去を失っている男なら尚更にね。違わない?
自分の方が嘘を吐いている可能性だってあるじゃないの」
俺は黙ったままアルマを見る、目を離せない。濁ったその翠色の世界に挑むように。
「あんたをずっと思ってくれた御婆様がこのような形で残してくれたのよ。
いくら本人が否定して虚像だとしても、そこにはなんらかの意味において一つの真実があるじゃない? あんたはそれを信じることができないの?」
アルマの翠色の瞳を見続けた俺は顔を離し息を吐き、それから自分の像を見た。
「オヴェリアちゃんによる公式的な俺の最後だが、信じ難いもんがあったな。
崩れ倒れる柱からイザーク王女を身を挺し守る盾として散ったとは、いくら何でも盛り過ぎだよ。
皮肉もいいところだ。殺すものが守る者と語り継がれるだなんてな」
「記憶を失っているのに嘘だなんて言っていいの?」
アルマの言葉に俺は黙りそれから息を吐く。
「まぁいいか……まだ分からないが、過去を取り戻したらそこが分かるのかもな」
「分かるわよ、きっとね」
「まぁでも御婆様は話を面白くするためにちょっと盛り気味なことを話す人だったからなぁ。
ヤヲさんは心優しき天下無双の力持ちだったとかよく言っていましたよ」
ラムザが笑いながら言うとアルマが続いた。
「あっそこ絶対に嘘ね。現物を見たらとてもそうだとは思えないもの」
「おいちょっと二人とも。話がいきなり元に戻ったぞ。まぁどうでもいいか」
自分は死人なのだ、と俺は思った。
だったら記憶は伝説は、そのままにしておく方が正しいのだと。
自分がとやかくいうことでは、既に無いのだ。
アルマが英雄アーダンの銅像をさすりながら俺に言った。
「というか不合格よね。失格寄りな合格とも言えるけど自力で成し遂げていない。
崖から降りて村に帰っても良かったんじゃない? そうしたらこんな生き恥を晒さずに生涯を終えられたのに」
「そうかもしれないな……」
俺の呟きにアルマは顔をしかめ銅像を蹴ろうとしたが、何故かやめた。
俺じゃないのを蹴っても仕方がないというのか?
ここはグラン・ベルンの首都バーハラのとある広場。
勇者ジークに関わったものたちの銅像があり、誰もがそれを見て触り語りかけることができるようになっている。
「第二次聖戦を終えた後にグラン・ベルン王は非業の死を遂げた父君の名誉を回復すべく、各地に銅像を立てまた各施設に肖像画を掲げさせました」
「つまりこれはその時の政策の結果と言うことか」
ラムザの説明を受けながら俺は自分の名のついた銅像を見ながら応えた。
名前だけは一緒であるも顔から体つきまで全部違う、自分の像。
虚像、である。
「こっちのほうがカッコいいわよね」
隣に立つアルマが溜息まじりに俺の腕をつつく。
「銅像はいかにも屈強な男って感じがして英雄らしくていいわ。
厚い胸板に太い二の腕そして凛々しい眉毛に闘志あふれる掘り深きお顔。
戦士の中の戦士で素敵。それに比べて、ね。
この細い腕にうっすい胸板そして覇気のないその浅めなお面、はぁ、いやになっちゃう。同じなのは背丈だけなの~?」
アルマの銅像への絶賛を聞きながら俺は眉は小刻みに震える。
自分を褒めているのに褒めてなく、むしろ徹底的に貶している奇妙なやり方に意地の悪さを感じていた。
虚像が讃えられ実像が貶されるとはいかなる不条理であろうか?
作った奴に文句を言って貰いたい。
「いや、そっちのは妄想の産物だろうが。誰だこんな実物と違うのを俺だとしたのは!」
「ざーんねんでした! 御婆様とのことですってよ」
「えっ! なっなんでだよオヴェリアちゃん!」
あまりに意外なことに俺が絶叫し固まりながら像と目を合わせ、思い出す。
もっと強くなってくださいという注文の声を。何度も聞いた声が脳内で甦る。
確かに彼女は自分の強さを強く願っていたが、その願いを具現化するとこうなるのか?
一目見ただけで了解できる骨格が違う別人。
いくら自分が鍛えてもこうはならんだろ?
同じなのは身長ぐらいだぞと俺が戸惑っているとラムザが言った。
「まぁそこは御婆様だけではなくてね色々な人の意見を聴いて、ですね。
特にこちらの王様のご要望もあったようです。初期の頃から父に仕えし地元の三人の戦士。どうやら三人とも剣士でしたようですが、それではキャラ分けができず覚えにくく、物語的には映えなくつまらないでしょうし。
だからノイスは力の剣でアレクは技の剣そしてアーダンさんは守りの剣である盾役といった剣士となったのでしょう」
「つまらないってなんだその判断基準は」
「じゃあなによあんた。これが不服だってこと?」
アルマは虚像の頭を撫でながらその声にアーダンは口を閉じた。不服?
英雄として残してくれたこと……そう俺はとにかくあの二人を姿を銅像として残してくれたことに関しては。
「……いや、そうじゃない。ノイスとアレクの件は感謝するし、彼女がそういう風に俺の姿を残したかったのなら、俺からしたら何も言うことはない。こちらは何かを言う権利なんてないのだからな」
「いやいやありますって。まぁハハッご当人からの許可が下りましたね。
なんといっても第一次聖戦は生還者が極めて少ないですから、グラン・ベルン王が御婆様に御記憶に頼らざるを得なかったようですよ。それでまぁ記憶の美化が施されまして」
「彼女は幾分かロマンチックだったからな」
「十代半ばの乙女なんだからその当時の若かりし頃の記憶なんて年をとったら夢見がちに脚色されるわよ。
私もあんたを実際に見てまるで違うからすごく納得したわ」
「御婆様は優男系はあまりお好みではなかったようですしね。
だからグラン・ベルンの戦士たちは強めな男系となった感じですね。
まぁこのようなものがここ首都にはいくらでもあり各々の村にもあるそうですよ。
あなたたちはそう歴史というか伝説なのです」
「伝説か……」
俺はその伝説上の存在である銅像を見ながらレストランでの壁画も思い出す。
教えてもらった伝説とは、こうだ。
立ち上がった勇者ジークのもとに参じる三人の戦士。
同郷の親友同士の技のアレク、力のノイス、そして硬さのアーダン。
それぞれの個性を生かし魔王軍との戦いにおいて最後まで活躍し……というのが公式的な歴史。
だが、それは違う。微妙にというか大きく違うと俺は首を振る。
「俺は硬くもないし技もないし力もない、戦士未満だったんだよ。少しだけ稽古をつけてもらったぐらいの腕前だ。
それに比べて二人は真の戦士だったよ。力も技もありそして硬い男だ。
二人こそライバル同士であり親友ともいえたが俺はその後ろにいるおまけみたいなもんだ。
後方支援がせいぜいのな。彼らは英雄的な使命を果たした一方で俺は二人の間に挟まることはない。
この関係は本来はコンビであってトリオとかではない。
俺の銅像はあったとしてももっと小さくかつ彼らの傍にあってはならない。
事実は史実とは大きく異なるんだ」
「だけどもそう残したかった人がいた、少なくとも御婆様はそうであり、そう残したかった」
アルマが俺の正面に立ちそう告げる。
「どうしてだろうな。俺はこういう男でもそういった人間関係でも無かったのに。彼女だってそのことは承知していたはずだ」
「御婆様から見たらたぶんそうだったのよ」
「そこが、わからない」
「自分の見方が本当に正しいのかだって分からないじゃない」
その言葉に向かってアーダンは一歩前に出る。
「当の本人が言っているのにか?」
「たとえ当の本人が言っていてもよ。だってあんたは自分という存在をロクに把握していないじゃないの」
アルマも俺を見上げ双方で以って睨みあう。
「俺はこんな男じゃないと、あんたはそんな男ではないという二つの意見がぶつかった場合は、
どちらが正しいかは分からないわ。それともなに? あんたはそこまで自分について自信があるわけ?
言い切れないわよね? ましてや過去を失っている男なら尚更にね。違わない?
自分の方が嘘を吐いている可能性だってあるじゃないの」
俺は黙ったままアルマを見る、目を離せない。濁ったその翠色の世界に挑むように。
「あんたをずっと思ってくれた御婆様がこのような形で残してくれたのよ。
いくら本人が否定して虚像だとしても、そこにはなんらかの意味において一つの真実があるじゃない? あんたはそれを信じることができないの?」
アルマの翠色の瞳を見続けた俺は顔を離し息を吐き、それから自分の像を見た。
「オヴェリアちゃんによる公式的な俺の最後だが、信じ難いもんがあったな。
崩れ倒れる柱からイザーク王女を身を挺し守る盾として散ったとは、いくら何でも盛り過ぎだよ。
皮肉もいいところだ。殺すものが守る者と語り継がれるだなんてな」
「記憶を失っているのに嘘だなんて言っていいの?」
アルマの言葉に俺は黙りそれから息を吐く。
「まぁいいか……まだ分からないが、過去を取り戻したらそこが分かるのかもな」
「分かるわよ、きっとね」
「まぁでも御婆様は話を面白くするためにちょっと盛り気味なことを話す人だったからなぁ。
ヤヲさんは心優しき天下無双の力持ちだったとかよく言っていましたよ」
ラムザが笑いながら言うとアルマが続いた。
「あっそこ絶対に嘘ね。現物を見たらとてもそうだとは思えないもの」
「おいちょっと二人とも。話がいきなり元に戻ったぞ。まぁどうでもいいか」
自分は死人なのだ、と俺は思った。
だったら記憶は伝説は、そのままにしておく方が正しいのだと。
自分がとやかくいうことでは、既に無いのだ。