美しき物語 失われたお姫様の願い
家の前では、いつの間にか家を出ていた椿が待っていた。

「先行ったかと思った!!」
「迷子になられたら面倒だし。」

冷たいように見えるけど、今だって私に歩くペースを合わせてくれている。そんな不器用で優しい彼が大好きだ。

「いつの間にかお兄ちゃんみたいになってるね、弟だと思ってたのに。」
「いつも泣いて俺の後ろぴよぴよ歩いてたのはどいつだったかな??」
「そんな前のこと覚えてないよ!!」

むすっと怒ると椿は優しく笑う。
怖いって言われがちだけど、すっごく可愛いんだよ、家の椿!!
私もつられて笑う。

桜の咲く坂を登っていくと、これから3年間通う校舎が見えてくる。
なんだかワクワクと緊張で胸がいっぱいになって大きく深呼吸をする。

「ねぇ、あなた、」

肩を叩かれ後ろを見ると、綺麗な黒髪ロングでツンとした猫目の女の子が立っていた。

「これ落としたわよ。」

そう言って差し出されたのは私の学生証。

「ありがとうございます!!」

笑顔で受け取ると私と椿の顔を見て彼女は少し表情を変えて「それだけだから」と去っていった。

_あの子、どこかで見たことがある、?

立ち止まって考えていると椿に声をかけられる。

「苺、行くぞ」

_うん、あんまり深く考えなくてもいいや。これから会う機会もあるだろうし。

桜が舞い落ちる中、校舎へと足を進める。

_でもなんであの子、泣きそうな顔をしてたんだろう。
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