シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある
玄関の鍵を開けると、キッチンからやわらかな匂いが漂ってきた。

「あ、舞香? おかえり」

「ただいま、海斗くん」

エプロン姿の海斗が、鍋の火を弱めながら振り返る。
テーブルには煮物と、炊きたてのご飯。
素朴だけど、あたたかい。

「反省会、どうだった?」

「うん……いろいろあったけど、ちゃんと終わったよ。
香奈衣さんも、島崎さんも、なんか……ちょっと変わってきた感じ」

「へぇ? あのふたりが?」

「言い合いながらも、お互いをちゃんと見てるの。
……不器用だけど、まっすぐなとこ似てるかも」

海斗は水を汲んで、舞香に手渡した。

「舞香も似てるよ、香奈衣さんと。
背中押すとき、さりげないけど、ぐっと力強い」

「え……? 私が?」

「うん。俺も何度か、それで救われてるから」

水のグラスを受け取った手が、ほんの少しだけ震える。

「……もう、またそうやって甘やかす……」

「甘やかしたくなるから仕方ないでしょ?」

舞香が口をつぐむと、
海斗が彼女の前髪を指でそっと撫でて、視線を合わせた。

「……おかえりのキス、していい?」

「うん」

「ちゅっ」

優しく、でも深く。
唇がふれ合う音が、小さく部屋に溶けていく。

「今日も、よくがんばったね、舞香」

「……ありがとう。
海斗くんの“ただいま”があると、全部ほっとする」

ふたりの夜は、
日常の中に確かな安らぎをまとって、
少しずつ“家族”のかたちを思わせるようになっていた。
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