シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある
「舞香、あのお客さん、あなたが運んで」

香奈衣のそのひと言に、舞香は手を止めた。

「え? あ、でも――」

「“でも”じゃないよ。
こういうのは、きちんと顔を見て接客するのが一番だから」

そう言って、わざとらしくエスプレッソマシンに背を向ける。

――わかってるんだ、この人は。
舞香は内心そう思いながら、トレイにカップを乗せた。

「ブレンドコーヒー、お待たせしました」

カップをテーブルに置いた瞬間、
舞香の指先と、彼の指がかすかに触れた。

一瞬の接触。
けれどそれだけで、胸の奥がふっと熱を帯びる。

「あのとき……煙の中で、
あなたがかけてくれた言葉、覚えてます」

ぽつりと、舞香が切り出すと、朝比奈は少しだけ目を見開いた。

「そうですか。
あの場では、ほとんど何も伝えられてないと思ってました」

「“大丈夫だ、もう安心だよ”って。
……その声が、ずっと、支えでした」

そう口にした自分に驚く。
どうしてこんな素直に言えてしまったのだろう。

朝比奈は黙っていた。
けれどその沈黙は、拒絶でも困惑でもなく――
ただ、真剣に舞香の言葉を受け止めているような静けさだった。
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