シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある
文化センターのロビーには、静かにBGMが流れていた。
手作りの展示と、子ども向けのコーナー、そして――「そなえるカフェ」。

朝比奈は、案内用のリーフレットを手にしながら、
一歩ずつ足を進めた。

私服姿の彼は、職場とは違う空気をまとっている。
でもその目は、いつものように周囲をよく見ていた。

“この場所に、何を伝えられるか”

“誰が、どんな風に動いているのか”

その中で、目に入ったのは――
受付に立つ舞香の姿だった。

ブラウンのエプロン姿。
少し背筋を伸ばして、丁寧に来場者を迎える姿。

笑顔は、無理をしているようには見えなかった。
落ち着いたトーンの声も、彼女らしい柔らかさがあった。

(……よく、ここまで来たな)

あの火災の現場。
病室で見た不安げな表情。
逃げることよりも、誰かを助けようとした横顔。

それが今は、
誰かの“安心”になろうとしている。

(俺なんかが、こうして見守ってていいのかって思うけど……
でも、やっぱり見ていたくなるんだ)

朝比奈は、カフェの遠くの一角に腰を下ろした。

声もかけない。近づきもしない。

けれど、舞香の姿をまっすぐに見ていた。
それだけで、胸の奥がほんの少し――温かくなった。
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