カラフル
 本を読み始めて約15分が経過した頃、SHR(ショートホームルーム)開始のチャイムが響き渡った。

 チャイムに少し遅れて、担任の坂本先生が教室に入って来る。相変わらず今朝も眠そうに大欠伸をしながら、「席つけー」と一言投げかける。

 クラスメイトはそそくさと自分たちの席に戻り、そして教壇に立つ先生に期待の眼差しを送る。

 教室の中はいつもに増して浮足立っていた。


「先生ー転入生は?」
 
 待ちきれないといった様子で誰かが声を上げる。


 坂本先生は再び欠伸をしながら頭を掻く。

「何でお前、転入生が来るって知ってんだ」

「知ってるって」

「それよりさ、早く早く」
 
 ソワソワと口々に急かす言葉が飛び交う。
 

「まあいいか。おーい、入ってこい」
 
 廊下へ向かって言い放たれたお決まりの台詞。
 ゴクリとみんなが唾を呑む音が、今にも聞こえてきそうだった。


 扉を開く音だけが大きく響いた。

 騒がしくなるだろうという予想を覆して、教室内は静寂に包まれた。その静寂が示すのはきっと期待外れだろう。


 ほら、やっぱり。噂なんてろくな事ないじゃない。

 そう思いながらゆっくりと目線を上げる。


 ――どうやら期待外れではなく、期待以上だったらしい。


 スッと通った鼻筋に、くっきりとした大きな瞳。

 身長はそこまで高くはない。おそらく170㎝台半ばくらいだ。

 彼が着ているのはみんなとは異なる服――おそらく前の学校の制服だろう。どこにでもある普通の学ランだ。
 でも、その制服の上からでもスタイルのよさがよくわかる。

 むしろ身長が平均より少し高いくらいで丁度よかったのかもしれない。そう思わせるくらい、小さな顔とすらりと伸びた手足はそれだけで異質だった。


 噂はあながち間違いではなかったらしい。

 いきなり現れた芸能人みたいな風立ちの彼に、誰もが言葉を失っていた。
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