隣の席の室井くん①
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「驚いたわ」
眉間にシワを寄せながらさっちゃんが呟く。
アタシは今だ興奮覚めやらぬ感じで彼らを見つめていた。
「何このバンド。すんごいレベル高いじゃない」
バンドに詳しくないさっちゃんでさえ、そう呟く程
やっぱり彼らの演奏は素晴らしかった。
室井くんの歌も、昨日ライブハウスで聞いた時よりも更に色気が増したような、背中をゾクゾクと何かが這うような感覚になる程に艶やかに伸びていた。
演奏中、時折室井くんと視線が合う度、室井くんはその綺麗な瞳を細めなまめかしくアタシを見るモンだから、アタシは今日何度目かの命の危機を感じた。
危うくキュン死するかと思いました。
「アンタの彼氏、凄いじゃない」
「えへへ、いやいやそんな」
「あのギャップは半端なぃわ」
「でしょ!!?」
「・・・ち、先に手を打っときゃよかった」
「・・・うえぇ!!?って、さっちゃん!!?」
「・・・冗談よ・・・。ヤメロその顔」
・・・やめておくれよ。いきなりのライバルがこんなセクシーダイナマイトじゃ勝ち目ないよ・・・
「やっぱいいなぁ!!ショウ!!日吉チャン連れてきて正確だなぁオイ!!!!」
ギターを肩からかけたまま相沢くんがそう言って高笑いをする。
「ほんと、わかり易いなぁショウは」
やなぎんがクスクス笑いながら室井くんの肩を叩く。
3曲歌いきった室井くんは若干青い顔をしてゼーゼー言ってるけど・・・だ…大丈夫ですか?
「おいショウ~、歌は絶好調だけどよ~お前もうちょい体力つけろよ~」
「・・・もう無理」
「ボーカリストが3曲で死人みてぇな顔してたらお客が泣くぜ~?」
・・・いやいや。むしろ、はかなげな姿に女の子たちは萌えるんじゃ・・・っていうくらいに、疲労困憊した室井くんの姿は無駄に色気を放っている。
「こう、マラソンしてみるとかよ~」
「・・・無理」
「筋トレするとかよ~」
「・・・やだ」
「そんなんじゃ、日吉チャンとの愛の営みの時どーすんだよ~」
「あいざわくーん?!」
思わず近くにあった鞄を、相沢くん目掛けて思いきり投げた。完全に無意識の条件反射から来る攻撃だった。
「ーーーっぶっっ!!!!」
アタシの放ったカバンが顔面に鞄がテクニカルヒットし転倒した相沢くんをスルーした室井くんは
「ありがと、日吉さん」
と、何事もなかったようにアタシの所へ真っすぐ歩いてくる。
預かっていた眼鏡を手渡すと、どれだけ視力が悪いのかその目を若干細めながらソレを受け取る姿は、やっぱりアタシの知ってる室井くんじゃないようで余計に緊張する。
けれど、眼鏡をかけ、前髪を下ろすと、いつもの見慣れた室井くんに早変わりだ。
その姿を眺めながら
「スタジオの中でも歌う時も眼鏡外すの?」
そう問うと
「いつもはしたままだよ」
と、少し恥ずかしそうに返事を返してきた。
「ショウはね~極度の恥ずかしがり屋サンだから、人前で歌う時は眼鏡外さなきゃ歌えねーの」
あ~いて~と額を摩りながら起き上がった相沢くんがそう言葉を紡ぐ。
・・・一生寝てりゃいーのに
・・・と、とりあえず一睨み。
「なんで?」
さっちゃんがアタシの変わりに尋ねる。
「コイツ超ド近眼だから、眼鏡外すとほぼ何も見えねぇの。だから歌ってる時はお客の顔見えてねぇから丁度いいんだよ」
ギャハハハハ!と笑いながら相沢くんがそう答える横で
「人に注目されるのキライ」
と、ボソリと室井くんが呟いた。