歪んだ月が愛しくて3
「そう言うリカはどうなの?」
「どうって?」
「好きな人、いないの?」
「……その話は前にもしなかったっけ?」
「チサさんの話は聞いたよ」
「じゃあ知って…「気になってる人は?」
俺の言葉を遮るように口調を強めた、未空。
「チサさん以外に、他に気になってる人はいないの?」
「……いないよ」
「えー、本当かな」と悪戯っぽく笑う未空はどうやら俺の返答に不満があるらしい。
でも未空には悪いけどそれ以上の答えを求められても答えようがなかった。
……気になる人なんて、もういない。
そんな予防線を張って自分の気持ちを隠す。
結局はどっちも一緒なんだよ。
好きな人も、気になる人も。
だから言えない。それだけだ。
「てか、何で未空がここにいるの?帰省しなくていいの?」
態とらしく話を変えれば未空は「あ、話逸らした」と素直に思ったことを口にした。
まあ、態とだしね。
だってこうでもしないとずっとこの話題続きそうだったし、多少強引でも軌道修正しないと。
「帰省ね…。俺はしないかな、多分」
「多分?」
その曖昧な言い方に思わず聞き返した。
「特別帰る理由がないんだよね。だから帰らなくてもいいかなって」
「……じゃあ、俺と一緒だ」
「え?」
「俺も帰省するつもりなかったから未空と一緒だなって思って」
「ほ、んと…?リカも家に帰らないの?」
「帰らないよ。まあ、兄ちゃんの彼女との顔合わせがあるからその時は帰らなきゃだけど、それ以外は寮でのんびり過ごすつもりだよ」
「じゃ、じゃあ、その間は俺と一緒にいてくれる?2人でどっか遊びに行ったりとか…」
「あ、それいいね。どこ行く?未空はどっか行きたいところあるの?」
「っ、……ううん。俺リカと一緒ならどこでもいい。リカと一緒ならどこにでも行きたい!」
「じゃあ考えといてよ。俺も未空と一緒だったら色んなとこ行ってみたいからさ」
「リカ〜っ、ありがとう!!もうほっんと大好きぃ!!チュー…」
「チューはいらん」
口元を突き出して迫って来る顔を片手で押し返してると言うのに、未空はニヤニヤしながら「リカがチューって言った!かっわいぃ!」と寝ぼけたことを言い出した。
しかもたった今思い付いたかのように「あ、そうだ!俺行きたいところがあったんだ!」と、俺に顔を鷲掴みされながら何故か挙手した。メンタルつよ。
「俺、お祭りに行きたい!」
「祭り?」
「うん。この時期って下町とかでお祭りやってんでしょう?前にのんちゃん達が言ってた!俺行ったことないから行ってみたいな!」
「祭り、か…」
この時期の祭りと言ったらあそこか。
でもあそこはヤエの管轄下だから俺が行って顔バレしたら面倒だし、万が一昔の知り合いに会ったら嫌だしな…。
チラッと。
「リカ、お願いっ!!」
ゔっ…。
そんな捨てられた子犬みたいな目でお願いされたら嫌なんて言えないじゃん。
やっぱり未空はあざとい。
そして自分の顔の活かし方をよく分かっている。
分かっているくせにそう言う顔するってことは相当行きたいんだろうな。
「……分かった。一緒に行こう」
未空のお願いに負けて観念すると、未空はパアッと表情を綻ばせて「やったー!」と俺に飛び付いて来た。
かと思えば未空はとんでもないことを言い出した。
「よーし、そうと決まったら今すぐ行こう!直ちに行こう!」
「……ん?」
今、すぐ…?
あれ、幻聴かな?
「財布とスマホは持ってる?準備オッケー?」
「いや、まだ心の準備が…「じゃあ東都までレッツゴー!」
人の話を聞け。