年上男子、全員私にだけ甘すぎる件
ぜんぶ、きゅん。

Scene 1|呼び出しの放課後

 

 窓の外、日が落ちかけた放課後。
 机を片付けていた私の背中に、ふわっと視線が触れた気がして、振り返った。

 

 廊下のガラス越し。
 律先輩が、静かに私を見ていた。

 

 手で合図して、ゆっくり歩いていく。

 

 私の鼓動が、一気に速くなる。

 

 ねえ、律先輩。
 そんなのずるいよ。
 ただ目が合っただけなのに、私、もう息が止まりそうだよ。

 

 

 ——そしてたどり着いた、生徒会室。

 

 部屋の中は静かで、空気が少しだけ冷たい。
 でも、律先輩の存在がそこにあるだけで、空気がやさしくなる。

 

 「……来てくれて、ありがと」

 

 「いえ……あの、用事って……?」

 

 「……うん。特にはないんだけどさ」

 

 そう言って、先輩は立ったまま、
 私の目をまっすぐに見つめてきた。

 

 そのまなざしが、すこしだけ熱を帯びてて。
 いつもの、やわらかい律先輩じゃない気がした。

 

 「今日……誰と話してた?」

 

 「え……?」

 

 「陽向、柊真、澪、奏……。いろんな名前、聞こえてくる。
  でも、ねねちゃんの口から“俺の名前”は出てこない」

 

 「……そんなの……」

 

 「俺、ずるいの嫌いなんだよ。
  でも、“好きな子”を取られるのは、もっと嫌い」

 

 「……!」

 

 言葉が、喉の奥で止まった。

 

 “好きな子”って、今……言った?

 

 「……律先輩、今……」
 「言ったよ。ちゃんと聞こえたでしょ?」

 

 先輩はゆっくりと歩み寄ってきて、
 私のすぐ目の前で立ち止まった。

 

 距離、近い。
 鼓動、爆発しそう。

 

 「ねねちゃん。俺、君のことが好き。
  他の誰かじゃなくて、“君じゃなきゃダメ”って、毎日思ってる」

 

 「……っ」

 

 先輩の声が、
 ささやくみたいに優しくて、でも逃げ場のないくらい真剣で。

 

 私の世界が、ぐらって揺れた。

 

 「今日、呼んだのはさ。……“好き”って気持ち、もう我慢したくなかったから」

 

 律先輩の手が、そっと私の頬に触れる。

 

 やさしいのに、触れた指先が熱すぎて、涙がにじみそうになる。

 

 「……泣かないで」
 「な、泣いてないです……」
 「そっか。じゃあ——泣く前に、こうしてもいい?」

 

 「……?」

 

 そのまま、頭を撫でられた。
 ゆっくり、ゆっくり、まるで確かめるように。

 

 「ねねちゃん。俺に、もっと甘えて」

 

 その一言で、ほんとうに涙が出そうになった。

 

 好きにならないでいられるわけがなかった。

 

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