年上男子、全員私にだけ甘すぎる件

Scene 2|ちょっとだけ、ふたりきり

 

 律先輩に会ったあの放課後から、
 ずっと胸がそわそわしてる。

 

 「誰かに取られちゃうの、嫌だな」
 って、あんなふうに言われたら、
 心が落ち着くわけ、ないよ。

 

 気づけば、もう帰りのチャイムが鳴っていて、
 私はそのまま、ふらふらと廊下に出た。

 

 そのとき。

 

 「ねねちゃーん!」

 

 背中から呼ばれた声に振り返ると、
 廊下の向こうから、陽向先輩が軽く手を振りながら走ってきた。

 

 「あ、ちょうどよかった! ねねちゃん空いてる?」

 

 「え? はい……放課後なら」

 

 「やった。ちょっとだけ音楽室、来てくれない?」

 

 「音楽室……?」

 

 「今は俺とねねちゃんしかいない時間、って感じするから」

 

 ——そんなこと、さらっと言わないで。

 

 心臓が、またひとつ跳ねた。

 

 

 そして私は、
 夕日に染まる音楽室のドアをそっと開けていた。

 

 部屋の中はしん……と静かで、
 その真ん中にいたのは、
 アコースティックギターを抱えた陽向先輩。

 

 光に透ける髪と、
 指先からこぼれるやさしいメロディ。

 

 「来てくれてありがと」

 

 にっこりと笑ったその顔が、あまりにまぶしくて、
 言葉を返す前に、心が先にときめいてた。

 

 「今日さ、聴かせたい曲があって。……実は、ねねちゃんのこと考えて作ったんだ」

 

 「……え……?」

 

 「照れる? でもほんと。
  最近さ、ねねちゃんのこと考えすぎて、寝れないくらいだったから」

 

 「そんな……さらっと言わないでください……」

 

 「うん、でも本気」

 

 陽向先輩はギターを爪弾きながら、
 わざと視線をそらすふりをして、それでもちゃんと見てる。

 

 「ねねちゃんのこと、他の男子と話してるの見るとさ、
  俺、もうめちゃくちゃ機嫌悪くなるんだよね」

 

 「え……?」

 

 「たぶん俺、すっごいわかりやすいタイプ。……だって、好きだもん」

 

 ——まただ。
 また心臓の音が、自分にしか聞こえない音量で鳴ってる。

 

 「ねねちゃんの全部が、俺の好きなタイプで。
  てか、ねねちゃんじゃないと意味ない」

 

 陽向先輩はギターをそっと脇に置くと、
 そのまま、私の前にしゃがんで見上げてきた。

 

 「俺の“好き”……ちゃんと届いてる?」

 

 「……届きすぎて、どうしたらいいか、わかんないです……」

 

 「そっか。……じゃあさ、これだけ覚えてて」

 

 陽向先輩は、そっと手を伸ばして、
 私の指に、自分の指をそっと重ねた。

 

 「俺、今、ねねちゃんの手を離すつもり、全然ないから」

 

 その言葉に、
 部屋の空気ごと、全部、甘くとけていった。
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