冷淡女上司を攻略せよ!~ヘタレ年下イケメン男子の恋愛奮戦記~
「田中と言う男の住所を知りたいんですが、個人情報……」

「すぐ戻るから、ここで待ってて!」

俺が言い終わる前に、野田恵子さんは立ち上がると、ヒールの音を響かせながら、おそらく自分の職場へ戻って行った。

ちなみに俺が言い掛けたのは、

『個人情報なので難しいかもしれませんが、事情が事情なので、何とか教えてほしいんです』

だったのだが、この状況では悠長過ぎたかもしれない。

野田さんは、本当にすぐに戻って来た。手に紙を持ち、なぜかスプリングコートを羽織り、ショルダーバッグを肩に掛けて。

「もうわかったんですか?」
「総務を舐めないで。田中はここ数日、会社に来てないそうよ」

なるほど。やはり犯人は田中と言う男で決まりだな。

「さあ、行きましょう!」

野田さんは出入口に向かって駆け出し、俺は彼女の後を追う形になった。

「あなたも行くんですか?」
「当たり前でしょ?」

「会社は大丈夫なんですか?」
「早退したわよ。正確には半日休だけど」

道路に出ると、出待ちで停まっていたタクシーに俺達は乗り込んだ。そして、野田さんは紙を見ながら運転手に行先を告げた。

「急いでください!」

と言い添えて。

野田さんが持ってる紙は、田中と言う男の住所を印刷した物らしい。俺はその住所を元に、地下鉄やJRの路線図を頭に描いた。

「野田さん。うまくすれば、俺達の方が先に着くかもしれませんよ。そうなれば、待ち伏せ出来る」

「その根拠は?」

「電車の所要時間を計算したんです。乗り換え時間も考慮して、歩く時間も足しました」

たぶん俺は、ドヤ顔になっていたと思う。ところが、

「バカなんじゃない?」

と言われてしまった。
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