冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~
こうして、あの時のやり取りを今でも何の気なしに思い返してしまうことがある。
それは決まって、こんな風に仕事中の手が空いたタイミングで。
「原田さーん、どうしよう。十五時の会議までにここ間に合わないかもしれなくてー。見てもらってもいいですか?」
満面の笑みを浮かべて「お願いしまーす」なんてわざとらしく両手を合わせている彼女に、ちらりと視線を向ける。
本当は、下の名前で呼んでるくせに……。
彼女の白々しい態度に小さく息をつく。
「おいおい、間に合わないって勘弁してくれよー」
言葉とは裏腹に、頼られて嬉しそうに彼女のパソコンを覗く彼──原田久志は、半年ほど前に離婚した私──唐木田知花の元夫だ。
出会ったのは、この『ナナセコミュニティ』に入社して間もなくの頃。
同じ部署で同期ということもあり、意気投合するのは早かった。
明るく人当たりのいい彼に私は惹かれ、彼もまた、面倒見がいい私に惹かれたと言い、付き合い始めるまでそれほどの時間はかからなかった。
そして、入社して二年後、二十五歳になる年に私たちは社内恋愛の末にゴールインした。