生徒会長と私
夜7時過ぎ、あのまま会議はなんとか終わったが、
それぞれ考えて、明日また、学校で話そうということで終わった。

はあーと大きなため息をつく。
スクールバッグを担ぎなおして家へと足を進める。
空は暗く星が瞬いているが歩いている道は商店街で
お店が並び店内の照明が道路を照らしている。
会社員や主婦たちが歩いて行く。
人が歩いている中、肩を落として歩く。

自分がやったことを冷静になって見返した。
私が言い出して、ゲームで負けて、バカみたいなことをした。
はあーとまた、ため息をつく。
3人が、一緒に責任を取ると言ってくれたのは嬉しかった。
本当に友だちでよかったと思う。
思うが、私たち4人が、
あの笑わない生徒会長を笑わせることが
漫才師でも、コメディアンでもない私たちにできるのか?
急に不安に襲われた。
できなかったら学校中のトイレ掃除を一か月。
もし、失敗したら………3人に迷惑をかける。
絶対に失敗できない。

だからと言って、人を簡単に笑わせることなんて……
簡単じゃない。
友だち同士でなら何が好きで、嫌いで
楽しみでというのがわかっているなら、簡単だ。
でも、氷室先輩は………。
全く未知の動物と同じだ。
何が好きかもわからない。

「どうしよう」と呟いた。
下を向いたと同時に甘辛い匂いが鼻をくすぐった。
匂いの元へと視線を向けると串団子が目に入った。
古くからある和菓子屋の店頭のガラスケースの上に、串団子が並べて置かれ、
今まさに買っているOLさんがいた。
OLさんはにこやかに「どうも」と言って、手に団子が入った袋を持って
帰っていく。
ゴクッとつばを飲み込む。
ファミレスでケーキを食べたばかりだが、
それはそれとして、お団子もおいしそうに見える。
甘いものを食べた後にしょっぱいものが食べたくなるという現象だ。
「照美じゃあるまいし」
 と呟いて食べたい気持ちを抑える。
これから家に帰って夕飯を食べるつもりだ。
今、食べている暇はないのだからと
そのまま、店の前を通りすぎた。

「はい。みたらし一本」と店員のおばさんが笑顔で渡してくれる。
「おいしそう」と笑顔で受け取った。
 仕方ないよねと自分に言い訳しながら、
お店の前にあるベンチに座って食べ始める。
醤油とサトウとみりんの配合が完璧なみたらしと
白い団子が一緒に食べると口の中に甘さと辛さが広がる。
心配していた気持ちが和らいだ。
「幸せ」と呟く。
「本当に幸せそうに食べるな」と上から男の人の声が
聞こえて見上げると氷室先輩が目の前に立っていた。
「つっつっつばさ……じゃなかった。氷室先輩。どうしてここに?」
 下の名前で呼びそうになったのは反射的に
カフェでのネームプレートを思い出していたからだ。
氷室先輩は相変わらず無表情で私を見下ろす。
 こんなところで道草食ってと怒っている?
「独りか?」
「?」
「誰かと一緒じゃないのか?」
「はい。私一人です」
「家は近いのか?」
「はい。歩いて10分くらいです」
「じゃあ、送っていく」
と隣に座る氷室先輩。
「え?」と裏返った声を出した。
「ど…どうして、そんな……送るなんて……」
「こんな遅い時間に女子生徒を一人で帰すなんてできないだろう」
「いえ。でも、中学のときは塾が終わった後、
一人で帰ったりしたから大丈夫です」
「そうか」と考えるように腕を組む氷室先輩。
 よく見るとやっぱり、イケメンだ。
 思ったより長いまつげに、切れ長の目、一文字に結んだ口、
 整った顔立ちをしている。
ふいに先輩が私の方を見てドキッとして正面を向いて、
残りのお団子を飲み込むように食べきった。
「もしかしてだが……」と先輩がちょっとだけ眉を寄せて
「迷惑か?」と聞いてきた。
ーえ? 私の耳がおかしくなった?
でも、先輩の顔を見ると無表情から少し不安そうな感じも見て取れて、
私は、隣に座っているのが迷惑なのかと聞いているのかと捉えた。
「いえ。そんなことはないです」と思いっきり否定した。
「本当に」と顔を近づけられて、心臓がどきどきと速くなる。
「はい。本当です」
「では、やっぱり送って行こう。心配だ」
「あ……」
 先輩の言いたいことに気が付いて「しまったぁ」と
心の中で叫んだ。

家までの帰り道、先輩と並んで歩いて帰る羽目になった。
次の日に、3人から
「このタイミングで笑わせたらよかったじゃん」
と軽口をたたかれるがそんな余裕があるわけがない。
道行く女子に振り返られるくらいの男子と並んで
歩いたことなんてないんだから。
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