秘密のdiary【兄と僕の嘘】

中身

さっきから、中身が気になって仕方ない。

捲るぞ、捲る。

中身を見てやるんだ。

勇気を振り絞って、開けようとした瞬間

タータン、タタン

「誰やねん」

僕は、電話に出る。

『もしもし、九《きゅう》?』

「あー。三《さん》か?どないしたん?」

『落ちとんやないか思って、大丈夫か?』

「大丈夫やで」

『三日後、合コンセッティングしといたからな』

「兄貴死んだやつに、合コンって」

『アカンかった?』

「そう言うアホなとこ、嫌いやないで」

『ほな、また時間連絡するわ』

「はいよ」

プー、プー

今の電話は、僕の幼なじみの冬宮三太郎《ふゆみやみつたろう》あだ名は、三《さん》だ。

そして、中、高と僕達のあだ名はアホのサンキューコンビだった。

兄の、イケメン若竹コンビと違い僕たちはダサメンと呼ばれていた。

まあ、三《さん》といれば何でも楽しかったし、今だって楽しいから気にしてなかった。

顔も頭も性格もよくて、おまけに運動神経もよくて、若竹コンビといると鼻高々だった。

アホな僕と、三は、自分達に向けられていない女子の視線を若竹コンビといると感じられて嬉しかったのをよく覚えている。

はあー。

人の日記を読むわけにはいかないよなぁー。

でも、一ページだけなら神様許して下さい。

僕は、最初のページを捲る。

【入学式の帰り。桜並木で、君に初めて会った。幼稚園が、一緒だったのを覚えていますか?私は、君に声をかける勇気がなかった。だって、君はみんなの憧れの人】

その日記は、中学生の頃からの日記だった。

【夢みたいな事がおきた。君が、「おはよう」と言ってくれた。その目に映った事を、どれだけ嬉しく思ったと思う?でも、すぐに、君はたくさんの人に囲まれてしまった。】

【10年日記を書こうと思ったのは、君に出会った帰り道だった。近所の文房具屋さんで、たまたま見つけた。いつか、君にこの日記を渡して気持ちを伝えよう】

10年日記?

という事は、この子が23歳まで続いていたって事なのか?

僕は、ページをペラペラ捲った。

終わっている。


【17歳になった。若と仲良くなれてるよ。あれから、たくさん話してる。ねぇー、若。これからも、傍に居てくれる?】


やっぱり、兄を好きだったんではないか…。

ならば、返す必要などあるのだろうか?

一番最後のページ


【若へ。君にお願いがあります。この日記を、夏目美に渡して下さい。きっと、君が知りたい真実に出会えるでしょう。私が、なぜ、この道を選ぶのかを知れるはずです。あの、桜の下で、待っています。】


桜の季節に待っている…。

和沙《かずさ》さんが、言っていたな。

桜の季節になれば、会えるか…

タタタータタタン

「はい」

『九《きゅう》、俺やけど』

「竹君」

『わかったで!一時間後に、若が好きな居酒屋で待ってるから』

「わかった」

僕は、電話を切った。

呪い殺されて、たまるか。

僕は、日記帳を閉じた。

兄の約束を守ってあげるかな… 

キャリーバッグを広げて、服をつめる。

明日から、帰るかな。

最後にした約束ぐらいちゃんと守らなアカンよな。

兄は、五ヶ月も長く生きたではないか…。

そう思い込もうとすればする程に、若かったのにと思わずにいれなかった。

まだ、30歳。

やりたい事、たくさんあったよな。

僕は、苦しそうに息をしながら話した兄を思い出していた。

「はぁー、はぁー」

「兄ちゃん、大丈夫?」

「九《きゅう》、大丈夫ーーー」

苦しそうに息をしながら、兄ちゃんは平気で嘘をついた。

死ぬまでのカウントダウンは、ずっと僕を九《きゅう》と呼んでいた。

亡くなる日の朝、兄は「九你臣《くにおみ》、めっちゃ好きやで。」って言ってくれた。

最後は、嘘つかれなくてよかった。

僕は、鞄の中に日記帳を入れて家を出た。

兄が、好きな居酒屋に向かう為に歩いて行く。


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