神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
…屋上なんかに上ってくるんじゃなかった。

あんなもの、見ずに済んだのに。

だが、見てしまったからには、なかったことには出来なかった。

「…?ルイーシュ様?」

エリトールさんが、屋上の柵の前で立ち尽くす俺に声をかけた。

…あなた、よく平然としていられますね。

さっきの、見てたでしょう?見たくなくても見えてしまったでしょう?聞きたくなくても聞こえたでしょう。

「…今の、何ですか?」

「えっ?」

「今の騒ぎですよ…。あれは何なんですか」

「あ…あぁ」

俺が尋ねると、エリトールさんは何を思ったか。

「申し訳ありません。不愉快なものを見せてしまって…」

そう謝ってきた。

いや、別に謝って欲しいなんて、一言も言ってないんですが。

「そういうことを言ってるんじゃありません」

「そ…そうですよね。本当に…不愉快な女です。恐らく、『青カード』の物乞いでしょう。キルディリアでは、たまにああいう連中が出るんです」

「…」

…物乞い。

ルーデュニア聖王国の王都セレーナでは、まず見られない存在である。

だが、このキルディリア魔王国では、充分に有り得る。

『青カード』…非魔導師の方々は、魔導師とは大きな差をつけられているようですから。

恐らく非魔導師の人々は、魔導師よりもずっと貧しく、困窮した生活を送っているのだろう。

結果、自分で稼ぐ手段をなくし、ああして物乞いに身をやつす人が現れても、おかしくない。

「まさか、この住宅街にまで入り込んでくるとは…。本当に、油断も隙もない」

まるで、キッチンに入り込んできたゴキブリのような言い草。

「ですがご安心ください。この場所は、上級魔導師様の住まわれる住宅街ですから。ああして、警備員の魔導師が常に巡回しているんです」

あぁ、そういうこと。

あの警備員は、この高級住宅街を守る番人のようなものなんですね。

「見つけ次第、すぐに捕まえて、追い払いますから」

「…」

「不愉快な思いをさせて、申し訳ございません。今後は、あのような害虫が入りこまないよう、しっかり見張りするように、警備員に申し付けておきます」

言いましたね。害虫って。

エリトールさんにとっては、『青カード』…ましてや、物乞いなんて。

人間ですらない。ただの害虫と同じなのだろう。

…成程。よく分かりました。

「さぁ、ルイーシュ様。寝室にお戻りください。そろそろ寒くなって…」

「…エリトールさん。あなたの一番大切なものは何ですか?」

「…は?」

突然の質問に、エリトールさんは間抜けに、口をぽかんと開けていた。

だが、俺の方は割と真面目ですよ。

真面目に聞いてるんです。

「あなたの一番大切なものです。家族ですか。友人ですか。恋人ですか?」

「…いえ…。私にとって一番大切なものは、魔導師としての誇りです」

…。

「そして、祖国キルディリア魔王国に対する愛国心です。これが私の一番大切なものです」

堂々としたお言葉をどうも。

随分と…ご立派なことじゃないですか。

これが面接試験だったら、満点合格でしょうね。

…俺が面接官だったら、即刻門前払いしてやりますけど。
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