神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「…どうして、この人がここにいるんですかね」

呆然としている俺に代わって、ルイーシュがサクメに尋ねた。

「キルディリア側の公式発表では、アーリヤット皇王は戦死したとの話でしたが?」

…そうだよ。

偉そうに、声高に発表してたじゃないか。

ナツキ皇王は投降を拒んで、潔くキルディリア軍の前に散ったと。

その発表を聞き、フユリ様は酷く落ち込んでいた。

それなのに…今、俺とルイーシュの前にいる人物。

ナツキ皇王は、生きている。

生きて、こうして…キルディリア魔王国の王宮の地下に囚われている。

どういうことだよ、これは。

「あの発表は虚偽だった、そういうことですか」

「その通りです」

シディ・サクメは、悪びれもせずに頷いた。

マジかよ。

戦死したという話は嘘で、本当はキルディリア国軍が捕らえ。

こうして、本国で身柄を拘束していたというのか。

「どうしてそんな嘘を?」

「イシュメル女王陛下のご命令です」

あの女狐の仕業か。

「皇王が生きて囚われていると知れば、旧アーリヤット皇国民は、皇王を取り戻し、反抗の旗印とするでしょう。抵抗の芽を摘む為にも、ナツキ様には死んでもらう必要があったんです」

「でも、生きてますよね?」

「殺してしまうのも、殺してしまったことにするのも簡単ですが、生きていれば、いざという時の切り札になりますから」

…へぇ、そう。成程。

旧アーリヤット領の国民達が、反抗の意思を見せることがあれば。

ナツキ様の首を突きつけて脅し、交渉の切り札とするつもりか。

何処までも狡猾。そして冷酷。

人の所業じゃねぇよ。

「無論、そのような切り札を使う状況にはならないことが理想ですが…」

いざという時の為の保険は、こうしてちゃんと確保してるわけね。

…まさか、ナツキ様が生きているとは。

フユリ様に教えてあげたい。

「…それで?」

俺は、さすがに冷静さを取り戻していた。

「自分らをナツキ様に会わせて、どうしようっての?」

ナツキ様という切り札があることを、俺達に教えて。

それで、一体何の得がある?

「あなた方は、ルーデュニア人ですから」

「は?」

「ここに囚われてからというもの、我々がナツキ様に何を尋問しても、頑なに黙秘を続けています」

そりゃそうだろ。

「更に、捕虜の身となっても、ナツキ様は毎日のように、自分をアーリヤット皇国に返すよう、しつこく要請しています」

それもそうだろ。

無理矢理連れてこられてるんだから。当たり前だ。

「侵略者であるキルディリア人に話すことは何もない、との一点張りで…」

だから、それも当たり前のことだろ、って。

お前ら、自分らが何をしたか分かってるのか?

ナツキ様にしてみれば、既に失うものは何もないんだから。

大人しくキルディリアの言うことに従うはずがない。

「ですから、ルーデュニア人であるキュレム様とルイーシュ様になら、何かを話す気になるのではないか、と思いまして」

「…」

「お二人をナツキ様に会わせ、話をさせるように、と…。イシュメル女王陛下からのご命令です」

「…あ、そう」

…あの狡猾な女王様、一体何を考えている?
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