神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
一体、何なんだ。

慌てて顔を上げ、クロティルダの睨む先を見ると。

そこにいたのは。

「…やはり、来ましたか」

見覚えのある、黒装束を身に着けた男だった。

…この黒装束…何処かで。

それだけじゃない。

この男から滲み出る、重々しくて粘っこい殺気。

目の前にいるはずなのに、まるでそこにいないかのように、気配はろくに感じられない。

無機質で無感情で、無慈悲な糸の刃。

その糸を、男は両手に絡ませたかと思うと。

まるで、クモが糸を噴き出すかのように。

自由自在に動き回る糸の刃が、俺とベリクリーデに襲いかかってきた。

「くっ…!」

「ジュリスっ…!」

「良いから、下がってろ…!」

俺は咄嗟にベリクリーデを庇い、背中に隠して身を低くした。

例え自分が貫かれたとしても。

ベリクリーデだけは、絶対に守ってみせる。

…しかし、その心配は必要なかった。

クロティルダがいたからだ。

クロティルダは、強靭な糸魔法にも、まったく怯む様子はなく。

片手に、銀色の蛇腹剣を持ち。

その蛇腹剣を振るって、敵の糸魔法を尽く切断した。

細い、透明な糸のようにしか見えないのに。

蛇腹剣で切り裂くと、ぶちんっ、ばちんっ、と重々しい音が鳴り渡った。

さっきから、クロティルダに助けられっぱなしだな。

それよりも…この糸。

これと似たものを、何処かで…

「あっ…」

…そうだ。この糸。

何処かで見覚えがあると思ったら。

「糸魔法…なのか?」

元『アメノミコト』の暗殺者。

花曇すぐりが、一番得意としている魔法…糸魔法だ。

俺もこれまで、長らく生きてきて、色々な魔法を見てきたが。

あれほど洗練され、手足のように使いこなす、練度の高い糸魔法を見たのは、花曇すぐりが初めてだった。

まさに自由自在、自分の手足よりも器用に、上手に操っている。

それを、まだ少年とも言うべき子供が使っているのだから、感嘆に値する。

そして、その花曇すぐりと酷似した糸魔法を、目の前の男も使いこなしていた。

いや…酷似している、となどという次元ではない。

花曇すぐりの使う糸魔法…そのもののような。

これはまるで、不自然なほど…同じ…。

花曇すぐり本人が、今、そこにいるかのような錯覚に陥って、背筋が冷たくなった。

そんなはずはないのに。

背格好も、魔力の質も、顔も、何もかも違うのに。

どうして、使う魔法はまったく同じ…。

そして、着ている黒装束もまた、元暗殺者達がいつも着ているものと同じだった。

…と、いうことは。この人物は。

「お前…。『アメノミコト』の暗殺者か?」

「…えぇ、そうです」

糸魔法使いの暗殺者は、冷たい声と眼差しで、そう答えた。

…やはり。
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