神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
キュレムは、アーリヤット皇国領で起きたことを、大雑把に説明してくれた。

キュレムの説明によると。

キルディリア魔王国に潜入した時に、アーリヤット皇王のナツキ様が生きていることを知らされ。

この情報を、何とかアーリヤット皇国民に伝えたいと思っていた矢先に。

アーリヤット領総督補佐として、キュレムとルイーシュの二人は、旧アーリヤット皇国領に派遣された。

そしてそこで、新体制の圧政に苦しむ、アーリヤット皇国民の姿を目の当たりにした。

更に、そこに追い打ちをかけるように。

クロティルダから、キルディリア本国にベリクリーデが攫われたという情報を知らされた。

このことに、キュレムは大激怒。

自分達がキルディリアにいない間に、勝手にベリクリーデを連れて行くなんて言語道断。

俺も、この点については激しく同意である。

ついに堪忍袋の緒が切れたキュレムは、一計を講じた。

ナツキ様の生存を知らせる、大量のビラを(手書きで)用意し。

ルイーシュの空間魔法の応用で、そのビラをアーリヤット皇国領全域にバラ撒いたのだという。

凄まじい行動力だな。

で、キュレムとルイーシュのやったことがバレ、咎められそうになったところを。

咄嗟に、ルイーシュの空間魔法で瞬間移動。

そして、その後も何度も瞬間移動を繰り返して。

アーリヤット皇国領から、このルーデュニア聖王国まで、空間魔法による空間転移のみを使って、帰国したのだという。

…ルイーシュでなければ、出来ない芸当だな。

それから…ルイーシュにしては、随分頑張ったな。

疲れ果てて、キュレムの背中で寝てる訳だよ。

それを思えば、ジェットコースター級だったとはいえ、クロティルダタクシーで帰ってきた俺など。

まだ、幸運な方だったのかもしれない。

「…ってな経緯で、無事に帰ってきた次第だよ」

一連の説明を終え、キュレムはそう締め括った。

「そうか…。それは…大変だったな」

心から同情するよ。

「まったくだよ。出張手当てとスパイ手当てと、慰労金の請求を要請する」

シュニィに伝えといてやるよ。

…スパイ手当てなんてものが、聖魔騎士団にあるのか知らないけどな。

「しばらくは、もう働きたくないね」

「そうだな。ゆっくりしてろ…。…って、言ってやりたいところだが…」

「うん?」

「…むしろ、大変なのはこれから…じゃないのか?」

と、俺が言った、その直後。

「キュレムさん!ジュリスさん、ベリクリーデさんも…!」

「おっ、シュニィちゃんじゃないか」

戻ってきた俺達を見つけたシュニィが、喜び半分、驚き半分に駆け寄ってきた。

「良かった…!皆さん、無事だったんですね…!」

「あぁ…お陰様でな」

「ジュリスが助けてくれたんだよー。ただいま」

俺とベリクリーデが、順に言って。

それから、キュレムが。

「帰ってきちゃったよ。恥ずかしながらな」

「そんな…。恥ずかしくなんてありませんよ。無事に戻ってきてくれて、本当に良かったです」

「そうかい。どうも」

…これで何事もなければ、手放しで喜べるんだけどな。

そうは行かない。

むしろ、本当に大変なのはこれからだ。

「シュニィ…。キルディリア魔王国は?何か動きを見せたか?」

「…それが…」

俺が尋ねると、シュニィは途端に顔色を曇らせた。

その表情を見ただけで、何となく察しが付いた。

「たった今、フユリ様から連絡がありました…。イシュメル女王が…キルディリア魔王国軍本隊を、アーリヤット皇国領に向けて出動させたそうです」

…ほらな。

大変なのはこれからだ、って言っただろ?
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