神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
ファニレス王宮の衛兵達は、実に気の毒だ。

彼らは何も悪くない。それに、彼らは確かに…強い魔導師だった。

ルーデュニア聖王国の、聖魔騎士団の魔導師にも劣らない。

…だけど。

「…う…うぅ…」

「…さすがに、相手が悪かったよ」

僕は、魔物と人間の…ケルベロスの血を、そして神竜バハムートの血を継ぐ、異形のバケモノだから。

いかにキルディリアの魔導師が強力だろうと…指輪を外し、魔物としての力を解放した僕には、敵わない。

まともな人間なら、誰でも。

一人残らず、無力化してやった。

ただし、誰も殺してはいない。彼らを殺すことは、僕にとって本意ではない。

僕の目的は、ただ…ナツキ皇王を取り戻すことだけだ。

衛兵達を蹴散らして、僕は真っ直ぐに地下に降りた。

遠くから、令月とすぐりが『玉響』と戦っているであろう、戦闘音が聞こえてくる。

彼らが持ち堪えてくれている間に、ナツキ皇王を助け出す。




…地下に降りると、僕の足音が聞こえたのか。

「…!誰だ?」

ナツキ皇王の、警戒した声が聞こえた。

「…僕だよ」

「…!お前…」

僕のこと、覚えてるよね。…さすがに。

「マシュリ・カティア…」

…御名答。

君に言いたいことは、色々とあるけど。

お互い思うことも、色々あるだろうけど。

今は、それらは全部脇に置いておくとしよう。

「…貴様…。ルーデュニアから、今度はキルディリア魔王国に寝返ったのか?」

まさか。

「違うよ」

そんな節操なしじゃないよ。いくら何でも。

僕の帰るべき場所は、ちゃんとある。

「君をアーリヤット皇国に、連れて帰る為に来たんだ」

「…俺を…?」

「言っておくけど、君を助ける為じゃないよ。ルーデュニア聖王国を守る為に…僕の大切な人達を守る為に必要なんだ」 

僕自身は、今や、このナツキ皇王に未練はない。

この人が死んだとしても…アーリヤット皇国が滅んだとしても、今の僕にはもう関係ない。

そこはちゃんと、割り切っている。…つもりだ。

だけど、ルーデュニア聖王国の平和を守る為には、この人の命が必要だから。

それに何より…シルナ学院長達が。

僕の恩人達が、そう望んでいるから。

僕は、その意思に従う。

「だから、一緒に来て」

「…信じて良いのか?」

「信じられないのなら、信じてもらわなくても良い」

僕のやることは変わらない。

それに。

「今のままじゃ、君だって八方塞がりのはずだよ」

「…」

このまま、ファニレス王宮の地下に閉じこもっていても、アーリヤット皇国に対する人質にされるだけ。

いつ殺されるかと、怯えて過ごすだけだ。

キルディリアの魔導師に殺されるくらいなら…。…元『HOME』の僕に賭ける方が、まだ希望があるんじゃないかな。

「…分かった」

ナツキ皇王は、頷いてそう言った。

「この場所から連れ出してもらえるのなら、それが何者であっても構わない。…俺は立ち止まる訳にはいかない」

「…良いよ」

その意気だ。

…それじゃ。

「行くよ。…ちょっと揺れるけど、しっかり掴まって」

これで何度目になるだろうか。

…通称マシュリタクシー、再び爆誕。
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