神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
しかし、ショックを受けている私とは違って。

「それがこの国のやり方なのだから、我々が口を挟む筋合いはないだろう」

無闇さんは、私よりずっと冷静で、淡々としていた。

…大人ですね。

無闇さんは『死火』の守り人として、これまで数々の国を渡り歩き、旅をしてきた。

「…これまでも、キルディリア魔王国のような国に出会ったことがあるんですか?無闇さんは…」

「いや…。さすがに、旅行者にまで身分証明証を発行するほど、極端に魔導師と非魔導師を差別する国は初めて見たが…」

「まぁ、魔導師を迫害する国はそんなに珍しくないもんねぇ。この国は魔導師じゃなくて、魔導師じゃない普通の人を迫害してるみたいだけど」

無闇さんと月読さんが、それぞれ言った。

…そうですか…。

確かに、世間一般の風潮としては。

魔導師を迫害する習慣はあっても、非魔導師を迫害する習慣は、なかなか耳にすることはありませんね。

大抵は魔導師の方が、気味悪がられて、蔑視されているので…。

…だけど、いずれにしてもこの差別は良くない。

キルディリア魔王国は魔導師優遇の国だけれど、魔導師じゃない一般人も住んでいるのだ。

今でこそ、彼らはキルディリアの非魔導師蔑視の体制にも、じっと我慢して堪えているが。

こんな国に暮らしていれば、きっと様々な不満を溜め込んでいるに違いない。

不満は、いずれ憎しみに変わる。

そして憎しみは、いずれ大きな力となって、この国に襲いかかるだろう。

…その時、どれほど多くの人々の命が脅かされ、血が流れ、涙が流れるか。

想像しただけで、気が重くなってしまう。

被害を被るのはキルディリア魔王国の民であって、ルーデュニア聖王国に暮らす私達には関係ない。

そう割り切ってしまえば、それまでだが。

だけど私には、そんな風に割り切って考えられなかった。

…これが私の弱さ、なんでしょうね。

自分の弱さに、呆れ半分、情けなさ半分で落ち込んでいる私に。

無闇さんは、

「我々のやるべきことは、一刻も早くキルディリア女王に会い、これ以上の悲劇が世界に撒き散らされるのを止めることだ」

「…無闇さん…」

「キルディリア魔王国が非魔導師を差別するのは勝手だが、アーリヤット皇国や…別の国にまで、このやり方を押し付ける筋合いはない」

…その通りだ。

無闇さんの言う通り。

今私がすべきことは、キルディリア魔王国の体制について、嘆き、悩むことではない。

そんなことをしたって、どうにもならない。

だから私は、今、自分に出来る最善を尽くさなくては。
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