神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「ついこの間、キルディリア魔王国は、ルーデュニア聖王国に魔導師軍をけしかけてきた。イーニシュフェルト魔導学院での争い…。忘れたとは言わせないぞ」

ぐさぐさと、容赦のない言葉の嵐。

む、無闇さん…。もう少し、オブラートに包むということを…。

いえ、私がまごまごしていたのが悪いんですが…。

「俺達はルーデュニア聖王国、聖魔騎士団の者だ。お前にとっては敵のはずじゃないか。もてなしてどうする?一体その態度はどういうつもりなんだ?」

「…」

あろうことか、女王に対して「お前」呼ばわり。

無闇さん…。恐れ知らずにも程があります。

イシュメル女王が激昂して、声を荒らげるのではないかと心配したが…。

女王は相変わらず、扇で口元を隠しながら、微笑んでいた。

「敵…?敵と言ったか、おぬし」

「そうだ。…違うのか?」

「違う。断じて違うぞ。むしろ、わらわはおぬしらを、同胞と思っておる」

…同胞…?

「おぬしら、魔導師なのだろう?…それも、相応の使い手だ」

…それは。

「見覚えがあるぞ。アルデン人の娘、おぬしの名は確か、シュニィ・ルシェリート。聖魔騎士団副団長じゃ」

「…!」

「そして隣のおぬしは、無闇・キノファ。神殺しの魔導書、『死火』の契約者じゃ。…違うか?」

「…」

私も、無闇さんも黙り込んだ。

…知っていたのか。

キルディリア魔王国の情報網は、予想以上に優秀だということですね。

「実に素晴らしい。我が国でも、おぬしらほどの魔導師は稀じゃ。さすがは、聖賢者殿の懐刀と言うべきか…」

「…」

「ルーデュニア聖王国に置いておくには勿体ない。どうじゃ。おぬしら、我が国に鞍替えするつもりはないか?」

あろうことか。

イシュメル女王は、私と無闇さんをキルディリア魔王国に勧誘した。

非常に…有り難い申し出なのでしょうね。

魔導大国であるキルディリア魔王国に「引き抜き」の誘いを受けるなんて。

しかも、イシュメル女王から直々に。

魔導師として、最高の名誉だ。

…だけど、私は。

「おぬしらほどの魔導師なら、すぐにでも上級魔導師に任命するぞ。住処も、職もすべてわらわが用意してやろうぞ」

「…結構です」

私は静かに、だけどきっぱりとそう答えた。

「何故じゃ?」

「私は、ルーデュニア聖王国に家族を残しています」

愛する家族を置き去りにして、他国に移り住むなんて有り得ない。

「そうか。ならば問題はない。家族ごと越してくれば良いのじゃ。10人でも100人でも、好きなだけ連れてきて良いぞ」

「いいえ、お断りします」

「…頭の固い女じゃ。一体何が気に入らぬと言うのか」

気に入るとか気に入らないとか、そんなことはどうでも良い。

関係ない。

私の家族はキルディリア魔王国じゃなくて、ルーデュニア聖王国に…あの場所にあるのだから。

「そちらの、『死火』の守り人殿はどうじゃ?おぬしほどの魔導の使い手なら、いつでも歓迎するぞ」

「悪いが、間に合っている」

無闇さんも、すげなく断った。

…そうですよね。良かった。

「なんじゃ、おぬしもか…。つまらんのう」

「俺はこれまで、様々な国を巡って旅をしてきた。だが、これほど居心地の悪い国は初めてだ」

む、無闇さん。

元々、はっきりとした物言いの人だとは思ってましたけど。

いくらなんでも、はっきり言い過ぎのでは…?
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