神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
ルシェリート宅に向かう途中、シルナ行きつけのケーキショップに立ち寄った。

無論、差し入れを購入する為だ。

「すみませーん。こんにちはー」

「あ、シルナ学院長先生。いらっしゃいませ」

あまりにも頻繁に、このケーキ屋を訪れている為。

店員さん達に、完全に顔と名前を覚えられているシルナである。

いつもチョコ菓子ばっか買うから、多分バックヤードでは、シルナのことを「チョコ男」とか呼んでると思う。

「何だか、羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「気の所為だ」

「丁度良かったです、シルナ学院長」

ケーキ屋の店員さんが、シルナに向かってにっこりと微笑んだ。

「今日から期間限定で、新しいチョコレートのケーキを販売しているんですよ」

「えっ、そうなの!?」

目がきらーん、と輝くシルナ。

「はい。こちらの、3種のチョコレートとキャラメルをふんだんに使った、期間限定チョコキャラメルテリーヌになります」

いかにも、シルナか好きそう。

「ほわぁぁぁ…!美味しそう…!!」

「このままでももちろん、ホイップクリームを添えていただくと、なお一層美味しく…」

「ほわぁぁぁぁ!想像しただけで最高に美味しそう…!」

…幸せな奴だよ。

駄目だ。シルナの奴、完全に期間限定チョコキャラメルテリーヌ、とやらに完全に心を奪われている。

「おい、シルナ」

俺はシルナを正気に戻そうと、脇腹をつついた。

しかし。

「なんて美味しそうなんだ…!まるでダイヤモンドのような、チョコレートの艶やかな輝き…!舌の上でとろけそうな質感…!」

「おい。聞けって」

「私に食べて欲しいって言ってる。羽久、あのテリーヌ、私に食べて欲しいって言ってるのが聞こえる!」

「それは幻聴だ」

ついに幻聴まで聞こえるようになったか。

重症だ。

「とりあえず、このテリーヌ、お店にある分全部ください!」

シルナは喜色満面で、店員さんに頼んだ。

シルナの特技、ケーキの大人買い。

「え。ぜ、全部ですか?」

さすがの店員さんも、ちょっと引き。

当たり前だよ。

お前、他のお客さんのことも考えたらどうなんだ。

「全部ください。全部食べたい!」

「そ、そうですか…。分かりました。すぐに用意します」

「ありがとう!」

ちょっと、イレースを連れてきてくれ。

拳骨を一発お見舞いしてもらうから。

しかし、今は俺しかいないので、俺が一人で何とかするしかない。

「おい、シルナ。お前…」

「あ、大丈夫だよ羽久。ちゃんと羽久の分もあるから!」

違う。そんな心配はしてない。

そうじゃなくて。

「お前、本来の目的忘れてないか?」

「へ?」

やっぱり忘れてるじゃないか。

普通に、自分の買い物を満喫している。

「アイナ達に差し入れするんだろ?」

「あっ…。そうだった」

お前のおやつを買いに来た訳じゃないんだよ。

「えぇっと、それじゃあ…。アイナちゃんとレグルス君と、アトラス君の分…。このチョコショートケーキと、チョコタルトと、チョコシュークリームを一つずつください!」

全部チョコ味じゃん。

お前な、自分がチョコ好きだからって、みんながみんなチョコ好きとは限らないんだぞ。

それに以前、アイナちゃんは、「イチゴのケーキが良い」って言ってなかったか?

「すみません。この馬鹿の言うことは気にしないで。…えぇと、イチゴのショートケーキと、フルーツタルトをお願いします」

「かしこまりました」

チョコ味以外のケーキも用意しておこう。一応な。
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