神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
ファニレス王宮の客室。

紫水晶の間、とやらに戻るなり。

「…キュレムさん」

「…」

「…キュレムさん。お茶でも淹れましょうか?」

「…あぁ。そうだな…ちょっと頼むよ…」

「分かりましたー」

…悪いな。

正直、ちょっと…いや、かなり。

…心に来るなぁ…。

迫害されている『青カード』…。非魔導師の皆さんが、過去の自分に見える。

散々馬鹿にされ、蔑まれ、無価値な人間だと見下されていた、過去の自分と。

それなのに、今の俺はどうだ?

ただ魔法が使えるってだけで、この国じゃ、さながら御殿様のような扱いだ。

魔導師至上主義なのは知ってるけど。でも、限度があるだろ。限度が。

確かに、この国は良い国だ。

…この国で生まれた魔導師にとっては、だが。

非魔導師にとっては…そして、他の国を知っている、俺達のような外国の魔導師にとっては…。

この国は…地獄以外の何物でもない。

自分は御殿様の扱いを受けられるのだから、非魔導師がどんな差別を受けていようと、見て見ぬ振りをしていれば良いのかもしれない。

この国のほとんどの魔導師は、きっとそうしている。

仮に、ほんの少し良心が痛むことがあっても。

「彼らは魔法が使えないから」と、心の中で馬鹿にして。

勝手に、自分の方が優秀な人種だと思い込んで。

魔導師じゃない人を見下して、蹴飛ばして、優位に立って。

…それで満足か?

そんなことで自尊心を満たして、それで満足か?

余計に虚しくならないか?

俺には無理だ。…とてもじゃないけど、無理。

昔の自分に、唾を吐きかけるようなものだ。

ほんと…。最低の国だよ、このキルディリア魔王国は。

「はい、キュレムさん。お茶入りましたよ」

「ん?あぁ…さんきゅ…。…って、何だこれ」

ルイーシュが差し出してくれたティーカップには。

…黄色い液体が、並々と注がれていた。

…何これ?

「バナナティー、って奴です。どんな味がするか気になったので、淹れてみました」

「ばっ…バナナ…!?」

…あるの?バナナティーなんて。

言われてみれば、ティーカップから立ち昇る、この甘い匂い。

バナナだ。

「…で、お前は何茶?」

「ダージリンティーですけど」

「畜生…。また俺を毒見係にしやがって…」

自分だけ、ド定番の安牌な紅茶を飲んでんじゃねぇ。

お前が気になったんなら、お前が飲めよ。

「どうぞ。飲んでみてください」

「…」

こんな時くらい、普通のお茶飲ませろよ!…と、言いたいところだが。

もうそんな気力もねぇよ。

ほら、バナナジュースって美味しいじゃん?

それなら、バナナティーもきっと美味しい。…はずだ。

俺はティーカップに口をつけ、甘ったるい匂いのする、黄色い液体を口にした。

「どうですか?バナナティー」

「…ん?おぉ…。…悪くない」

「それは良かったです」

結構美味いぞ。バナナティー。

「ただ…ちょっと甘いけど…」

「あぁ。それは俺が追加したガムシロップのせいです。…キュレムさんが疲れてるようだったので、糖分を補給すべきかと思いまして」

「…」

…気遣い、どうも。
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