イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした
その建物は、大通りから一本入った静かな通り沿いにあった。
白い壁と淡い木目のドアが、どこか病院よりも穏やかで、生活に近い匂いを持っている。

プレートには《女性と子どものための支援センター》と控えめに記されていた。

「……ここで、私……」

美香奈は小さく息をつき、扉の前で一度だけ目を閉じた。

――怖がってるのは、私。
でも、前に進みたいって思ったのも、私。

そう自分に言い聞かせて、ノックをひとつ。

「どうぞ」

扉の向こうから聞こえてきた声は、驚くほど柔らかかった。

中に入ると、そこには落ち着いた空間と、
観葉植物のグリーン、窓から差し込む自然光。

そして、その中心にいたのは――
優しい笑顔をたたえた、スーツ姿の女性だった。

「こんにちは。臨床心理士の佐伯ゆかりと申します。
真木先生からお話は伺っています。今日は、来てくださってありがとうございますね」

「……橋口美香奈と申します。こちらこそ……よろしくお願いします」

握手の代わりに、ゆっくりと会釈を交わす。

佐伯の言葉には、圧がなかった。
ただそこに、“受け入れる姿勢”があるだけで、美香奈の肩の力は自然と抜けていった。

「最初は誰でも緊張しますよ。
ここに来てくださる方も、支援に関わろうとする方も、同じように」

「……はい。実は、すごく緊張してて……」

「それでも来てくれたことが、すでに大きな一歩なんです」

佐伯の声は、まるでカーテン越しの光のように柔らかく、
それでいて、確かに胸の奥に届く。

支援の現場に流れる、静かな緊張感と、静かな温度。

その中で、美香奈はほんの少し――
自分もこの空間に“いていい”と思えた気がした。
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