紅い蝶の見る夢
今にも暴れ出しそうなあたしを桃と伊月が押さえ込む。
あたしは猛獣扱いされていることも忘れ目の前の佐倉をぶん殴ることしか頭になかった。
その様子を少し離れたところから暢気に眺める2人がいた。
「……いいんですか?」
「ん?何がだい?」
「日下部のことですよ。止めた方がいいんじゃないんですか?」
「必要かい?あれは俗に言うイチャイチャと言う奴だろう?」
「冠葉さんは揶揄っているだけでも日下部にはそう言う冗談は通じないと思いますけど(現に今にも殴りかかりそうだし…)」
「ふむ、それもそうだね。しかし止めるのは構わないが人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ぬと聞いたことがあるんだが…」
「その時はその時ですよ。それに馬に蹴られるよりアイツに蹴られた方が死ぬ確率は高いと思いますよ」
「寧ろそれはご褒美なのでは?」
「冗談言ってないでとっとと止めて下さいよ。今この場で日下部をコントロール出来るのは貴方だけなんですから」
「勿論彼の期待には応えるつもりだよ。心底可愛がってる腹心をこの僕に託してくれたんだからね。傷一つ付けるつもりもないし、少なくとも今の状態より改善…」
「語るのは結構ですけどアイツの期待に応えたいなら今の日下部は放置出来ないんじゃないですか?俺にはこれまで以上に意固地になった日下部をアイツが慰めてアゲハさんへの信頼がどんどん失われていく様が容易に想像でき…「海〜♡」
「はぁ…(わっかりやす)」
不意に総長があたしの名前を呼ぶ。
ビクッと、その声に無意識に肩が跳ねた。
「な、何…?」
総長はあたしの左隣にあるソファーの肘掛け部分に腰を下ろして何やら不気味な笑顔を浮かべていた。
「僕は冠葉と海がじゃてれるのは好きだよ。見ていて楽しいからね」
「じゃれてねぇよ!」
「しかし頼稀が止めろと言うから仕方ない。それに我が君の信頼を裏切ることは出来ないからね」
「だからじゃれてないって言ってんじゃん!そこ訂正してよ!」
「だから落ち着きたまえ。ああ見えても冠葉に悪気はないんだよ」
「いや、落ち着いてるし。そっちこそ人の話聞いてる?さっきから会話が噛み合ってないんだけど」
「ただどうも冠葉は海に対してだけは大人気なくてね。困ったものだ」
「ねぇ、何かあーちゃんが急に語り出したんだけど」
「偶にしか会わねぇ親戚のおっさんかよ」
「確かに総長はうちで一番の年長者ですけど」
「勝手にやらせておけばいいじゃん。邪魔すると後が面倒だし、どうせ何言っても海には響いてないんだから」
「良かったですね冠葉さん。大人気ない人間がもう1人増えましたよ」
「お前等と一緒にするな」
ダメこりゃ。全然話聞いてない。
前々から人の話を聞かない…、と言うか自分の都合の良いように解釈するところがある人だとは思っていたけど姫様がいないだけでここまで暴走するとは思わなかった。もうしれっと帰ろうかな。そもそもこの話にオチはあるのだろうか。結局あたしに喧嘩するなって言いたいの?だったらあたしじゃなくて佐倉に言えばいいのに。佐倉が余計なこと言わなかったらあたしだって…。
「それに仲間同士の喧嘩はご法度のはずだろう?」
「、」
総長の大きな手があたしの拳をそっと包み込む。
思わず顔を上げればそこには先程までの不気味な笑顔とは裏腹に毒気のないアホみたいな笑顔を浮かべる総長がいた。
「拳を納めたまえ。海の拳は仲間を傷付けるためにあるのかい?」
「………」
アホみたいな顔。
それでも総長かよ。締まらないな。
「……言って置くけどじゃれてないから。勘違いしないで」
でも逆らえない。
逆らう気すら起きない。
「いい子だ」
……何となく、似ている。
あたしを拾ってくれたあの人と。