紅い蝶の見る夢



「尚哉、お前…」



よっちゃんは少し驚いた様子で尚哉を見た。



「俺が気付いてないとでも思ったのかよ。だから頼稀は肝心なところで詰めが甘いんだよ。海を見守ってたのはお前だけじゃねぇんだよ」

「………」



その言葉に耳を疑った。
よっちゃんが海ちゃんを見守っていた?……信じられない。
だって僕の知ってるよっちゃんは海ちゃんを心配するような人じゃない。
どちらかと言えば海ちゃんに対してあまり良い感情を持ってないように見えるし、本人を目の前にしても結構あっさりしてるって言うか淡々としてるって言うか、兎に角よっちゃんが海ちゃんを心配するのには何かしらの裏があるように思えてならなかった。



「目星は付いてんのか?」

「正確には把握出来てない。でも最近になって“蠍”の参謀が北武館に出入りしてるって情報なら掴んだよ」

「北武館?」

「“玄武”か…」

「え、“玄武”って、あの…?」

「いや、でもあそこは…」



有り得ない。

だってあそこは…。



「だから言ったじゃん、正確に把握出来ないって」



絶対不可侵の領域、のはず…。



「冠葉さん、“朱雀”の先代総長だった貴方なら“玄武”の総長とも顔見知りのはずですよね?あっちはまだ世代交代していないようですし」

「此花祈織を使うってのも一つの手だけど、1年の新米総長より佐倉さんの方が認知度ありそうだしあっちの警戒心も薄いんじゃない?それに佐倉さんの代はあの“玄武”と上手くやってたようじゃないですか」

「……つまり、俺に“玄武”の頭と接触しろと?」

「そゆこと。話が早くて助かります」

「俺が潜入してもいいんですが、何しろあそこは…」

「まあ、あそこは孤立要塞みたいなもんだしな」



誰もが言葉を濁す中、ヒーくんだけは何とも思ってなさそうにあっさりと言い切った。
ヒーくんからしてみたら北も南も関係ないんだろうけど、北と南、つまり“玄武”と“朱雀”の関係は“四神”の中でも複雑で「取扱注意」「混ぜるな危険」の最悪な組み合わせとして世間から認識されている。彼等の因縁は初代から続くとされているが果たしてそれを正確に把握している人間はこの世に何人いるだろうか。何せもう20年も前のことだ。当時の人間ならまだしも現役メンバーですらその因縁とやらを正確に把握してるかどうか怪しいものだ。だからこそ様々な憶測を呼び、その上当たり障りないように曖昧な態度を取っているから腫れ物扱いされてるんだろうな。
前“朱雀”の総長であるサクちゃんなら真実を知ってるんだろうけど、歴代のトップ達の口は固く彼等の口から真実が語られたことは一度もない。



「……分かった」



だからよっちゃん達の提案にサクちゃんが頷くのは目に見えていた。



「え、会うんですか?“玄武”の総長と?」

「頼稀の言うことには一理ある。俺が行くのが妥当だろう」



そう言ってサクちゃんはあーちゃんの名前を呼んで互いに向き合う。

……まただ。
大地色の瞳の中に棲まう獣が唸りを上げている。
でもそれに気付いたのは僕だけじゃなかった。



「頼んだよ、海のためにね」

「はい」



流石あーちゃんだ。
サクちゃんの中に棲まう獰猛な獣に気付いていた。
それどころかその獣を手懐けているようにさえ思える。
あーちゃんにはそれだけの力がある。頂点に立つ者だけが持つ力が。



『―――君はそこにいるべきじゃない』



僕を導いてくれた人。
僕にとっても、サクちゃんにとっても、あーちゃんの存在は救いだった。
自分の存在価値を見失いそうなほどの暗闇ので見えた一筋の光。それが僕にとってのあーちゃんだ。
だから僕は今ここにいる。どんなに先の見えない未来が待っていようとも光がある限り迷わずに歩くことが出来るから。



ねぇ、サクちゃんだってそうでしょう?


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