紅い蝶の見る夢



「何でサクちゃんに聞くの?」

「冠葉さんは関係ないんじゃ…」

「冠葉さんは南城の生徒会長として入学式に参列していた。それに尚哉の話だと日下部が暴れ出したのは冠葉さんのスピーチの最中だとか」

「ああ…」



海は俺が壇上に立ってスピーチをしている最中に事を起こした。
だから本当ならば風鳴よりも海のことを正面から見える位置にいたのは俺のはずだった。
でも風鳴の言う通り海は突然動き出したかと思えば一目散に“蠍”の元に向かい群がって来る仲間を次々と地に沈めた。
近くにいた生徒も大人達も勿論俺も彼女を止めることが出来ず、逃げ惑う生徒と群がる“蠍”を押し退けて海の元に辿り着いた時には既に事を終えた後だった。
血溜まりを踏み締めて制服を真っ赤に染めた海に近付く者は誰もいなかった。
唯一近くにいたのは風鳴だけだったが、その風鳴も巻き添えを食らって放心状態のまま体育館のフローリングの上に尻餅を付いていた。一部始終は見ていたんだろうが結局のところ海と“蠍”の間に何があったのかは分からず仕舞い。



「結論は出ずか…」



“蠍”との間に何があったのか海はその理由を話そうとしない。
何度聞いても答えはいつも決まって「……何となく」の一点張り。最終的には「しつこい」と煙たがれて俺を避けるようになった。



「どうせ“蠍”にしょうもない因縁でも付けられたんだろう。アイツ見た目以上に負けん気強ぇからな」

「でも1ヶ月も“蠍”に狙われてるとなると海ちゃんと“蠍”の間に何かあったとしか思えないんだけどな…」

「………」



桃の言い分は最もだ。
俺もそれだけが気掛かりだった。
ただの喧嘩なら小言程度で済ませてやれるが今回ばかりはそうもいかない。



「あったんだろう、きっと」



そこに頼稀はしれっと爆弾を落とした。



「ただ日下部はそれを隠している。つまり俺達に知られたくない何かがあるってことだ」



それが何なのか俺には検討も付かなかった。

“蠍”のことだけじゃない。



『   せよ…』



知りたいのに。暴きたいのに。触れたいのに。

手を差し伸べることしか出来ない。

拒絶されても何度でも何度でも。

本当に情けない。



「だからお前には話すべきじゃないと思った」

「、」



キュッと、桃が口元を固く結ぶ。
そして桃は小さな声で「……ごめん」と口にした。
多くを語らない頼稀の不器用な優しさに桃は素直な気持ちを吐露した。



「あ、あの…、海さんが“蠍”に手を出した理由は“蠍に因縁付けられた”ってことで落ち着いたかもですけど、結局“蠍”は何で海さんを狙ってるんでしょうか?」

「そりゃー……仕返しとか?」

「今のところそれしか考えられないのが現状だね」

「つまり海本人の口から真相を話してもらわないことには手の打ちようがないと言うことかな?」

「まさか」



ニヤリと、頼稀はアゲハさんの言葉に口元を緩めた。



「よっちゃん、わっるい顔してるよ〜」

「性格が顔に出てるな」

「流石頼稀くんだね!」

「……褒められた気が全然しないが、既に手を打ってるのは俺だけじゃないぞ」

「「えっ!?」」

「お前だけじゃねぇってことは…」

「ですよね、冠葉さん?」



目敏いな。

いつから気付いていたんだか。



「おやおや、頼もしいね」

「海を連れて来たのは俺ですから…」



対策を練ったのは昨日今日のことじゃない。
海が停学処分を受けて倉庫に来なくなってからすぐに実行に移した。
だから海が街で暴れてもすぐにその動きが把握出来たし、誰かと一緒に行動していたことも容易に掴めた。その誰かが何者なのかは釈然としないままだが…。
だたその誰かについて追加で調査を依頼しようとしたところ「彼はそう言う部類じゃないから心配しなくても大丈夫だよ」と曖昧な答えを返されたが正直安心なんて出来るはずがなかった。



「なーに格好付けたんだよ、それだけじゃねぇくせに」

「サクちゃんも大概不器用だよね」

「やっぱり冠葉さんは海さんのことが大切なんですね!」

「ふふっ、バレバレのようだよ」



海を“B2”に連れて来たのは俺だから責任の有無を問われれば間違いなくその責任は俺にある。
でもそれ以外の感情の方が大きいのもまた事実で、俺には彼等の言葉を否定することが出来なかった。
ただ笑われたままなのも癪だから近くにいた緋真の脛を蹴って気分を紛らわした。



「俺に当たるなよ」

「……煩ぇ」



これが当たらずにいられるか。


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