豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網

最悪の誕生日

 右を見ても左を見てもカップルばかり。
 キラキラとネオン輝く街中も手を繋ぎ、腕を絡ませ、肩や腰を抱くカップルであふれかえっていた。
 クリスマスソングがいたる所で流れ、赤、青、緑と輝く光の渦が恋人達を祝福しているかのように見える。
 気持ちがウキウキしていると、こんなにも街の風景が変わって見えるだなんて不思議だ。クリスマスムード漂い始めた一ヶ月前は、クリスマスなんてクソ喰らえだと思っていた。街中ですれ違うカップルを見る度に別れてしまえと呪いの言葉を呟くほどには病んでいた。それが一転、最高のクリスマス&誕生日を迎えられると考えるだけで、全てが輝いて見える。

 幸せだ。

 スキップする勢いで、イルミネーション輝く高級ホテルのエントランスを抜け、待ち合わせに指定されたロビー階へと向かう。正面にある大理石の階段をカツカツと靴音を響かせ登れば、気持ちもウキウキと弾みだす。

 どこにいるのかな?
 辺りを見回しても彼の顔を見つける事は出来ない。
 待ち合わせ十分前だし、まだ来ていないのかな?
 ロビーホールが見渡せるソファ席へ移動し彼が来るのを待つ。
 まだ来ない。
 待ち合わせの時間はすでに二十分近く過ぎていた。
 何かあったの? 事故とか……
 慌ててスマホの連絡帳を開き、久しく見ていなかった彼のアイコンを呼び出しーー

「鈴香お待たせ」

 頭上から響いた彼の声に、慌てて顔を上げた私は固まった。

『カシャン』

 あまりの衝撃に手からスマホが滑り落ち耳障りな音を響かせる。
 その女、誰よ!?
 彼の腕に手を絡ませ微笑む女。サーモンピンクのワンピースを着て、真っ白なパンプスを履き彼の隣に立つ女は確かに可愛かった。二十歳そこそこに見える女には三十路目前のおばさんは、逆立ちしたって敵うはずがない。
 そんな事は分かっている。
 ただ、彼を信じたい。まだ、彼と見知らぬ女との関係を聞いた訳ではないのだ。しかし、彼女は浮気相手ではないと信じたい私の気持ちは、一瞬にして砕け散った。

「鈴香別れて」

 見知らぬ女の顔が醜悪に歪む。ニタァっと笑った顔が脳裏に焼きついて離れない。

「ふふふ……。可哀想。もうとっくに終わってたのにね。鈍感にも程があるんじゃない? ご愁傷様。おばさん」
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