豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「周りにいる都合の良い女達と一緒か……」

 鈴香が周りの女達と違うのは、初めてsexした時から分かっていた。慣れた振りをしていても拙《つたな》い手技や反応を見れば行為自体に慣れていないのはすぐ分かる。遊びで付き合っていい女ではない。深入りするつもりもなかった。あの時までは。
 クラブで飲み仲間に肩を抱かれ座り込む鈴香を見て、怒りが爆発した。仲間うちでは、暗黙の了解というモノがある。あの時、他の女を連れて部屋を出た時点で、誰が鈴香を口説こうが問題ない。たとえ、俺が連れて来た相手であってもだ。
 VIPルームに戻り、鈴香が居ないのを確認し愕然とした。見張らせていた男と消えた事実が、俺を焦らせる。トイレ前で二人を見つけた時に感じた感情は、激しい嫉妬とは相反する喜びだった。
 床にへたり込んだ彼女と目が合った瞬間、鈴香は俺を見つめ泣き崩れた。怒りと喜びが入り交じった安堵の表情を浮かべて。
 人に弱みを見せる事をよしとしない彼女が、俺の助けを待っていた。その事実が心を震わせる。
 鈴香は俺のモノだ!!
 内からあふれ出した怒りをコントロールすることも出来ず、相手の男を脅していた。
 あの日からだ。彼女に対する想いが変わっていったのは……
 何をしていても、ふとした瞬間に考えてしまうのは鈴香のことだった。フロアで見かければ目で追ってしまうのは日常と化し、誰と時間を共有していても彼女と比べてしまう。
 食事をしていても、お酒を飲んでいても、デートをしていても、鈴香ならどんな反応をするのだろうと、無意識に考えるようになっていた。
 飲み仲間と遊んでいても、女とデートをしていても楽しくない。必然的に鈴香を呼び出す回数が増えていき、結果彼女を追いつめることになった。
『私を解放して……』
 気を失う直前までうわ言のようにつぶやかれた言葉が、彼女の本心なのだろう。
 自分の欲を優先し、追いつめてしまった。彼女の立場や都合も考えず呼び出し、無理矢理付き合わせた。彼女と一緒にいたいと思う欲求のままに。
 特別な存在。だからこそ不安で仕方がない。
 苦い想い出が甦る。
『私、結婚するの』
 愛した人に裏切られ捨てられた過去が、鈴香を手放すことを拒否する。
 脅迫という鎖で彼女を繋いでおけば、あの時のような絶望を味わうこともない。

「もう人を愛することなんてないと思っていた……」

 一人呟いた言葉が、タバコの煙とともに消え去る。おもむろにポケットから取り出したスマホの画面を開き、メールを打つ。
『仕事は完了した。課長へデータも送り済みだ。念のため添付ファイルを送るので中身を確認し、手直しが必要であれば連絡をくれ。
p.s.課長には、鈴香が休む旨は伝えておく。定時で帰るから逃げるなよ』

「このままって訳にはいかないな」

 スマホの画面を閉じ、シワの寄ったスーツを着替えるため更衣室へと向かった。
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