豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網

真紘side

「よし、終わった」

 目の前のパソコンを操作し、課長のメールアドレス宛てにデータを添付して送信する。さらに、USBにデータを保存し、鈴香がいつも使っている伝達用の封筒に入れ、課長のデスクへと置いた。
 凝り固まった肩を解すように腕を回し、扉に向かう。ワイシャツのポケットに入っていたタバコの箱を取り出すと、喫煙所へと向かった。
 誰もいない喫煙所の窓に背を預け、一本タバコを取り出すと口に咥え火をつける。深く煙を吸い込めば、キツめのメントールの香りが広がり、霞がかった脳を覚醒させた。
 陽射しが差し込む窓から外を眺め、ため息が溢れる。
 鈴香は目を覚ました頃だろうか?
 気絶するように眠った鈴香を抱き上げ、家へ連れ帰った。規則正しい寝息を確認すると、ベッドに彼女を寝かせ、その足で会社へと戻った。発熱していた鈴香を一人残したくはなかったが、あのまま仕事を放置すれば、彼女の経歴に傷を残す事になっただろう。それだけは避けたかった。あと数時間で、残された仕事が終わるか賭けだったが何とか間に合った。
 あそこまで追いつめるつもりはなかった。
 鈴香に告げた言葉は全て本心だ。確かに、始めは傷つけられた自尊心を満たすためだけに彼女の弱みにつけ込んで脅した。俺の存在を認めさせるためだけに、鈴香を思い通りに扱って、自尊心が満たされれば手を引くつもりだった。
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