豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
 あぁぁ、気持ちいい……
 湯船に浸かり、疲れた身体を癒す。
 これから橘と二人で暮らす事に抵抗がないわけではない。ただ、一緒に過ごした事で、彼に対する認識が変わって来たのも事実だった。買い物をし、食事をし、疲れたらお茶をする。ありきたりな行動の中、見え隠れするちょっとした優しさを心地良く感じている自分が確かにいる。
 時折り言われる意地悪な言葉も、よくよく考えれば、周りの目が気になり出した時に言われていたように思う。他人の目を気にし過ぎる私の意識を、彼に繋ぎ止めておくため、敢えて怒りを煽る。そのおかげか、超絶イケメンの奴が隣に居ても、普通に買い物を楽しめた。
 よく見ていると思う。
 ただ、それを感じさせないくらいさり気なくだけど、それに気づけば心が熱くなり、甘い痺れが走る。
 本当に私のことが好きなのかな……
 フワフワと心地良く酩酊する脳を持て余し、ブクブクと湯船に沈んでいく。
 あぁぁぁぁ、考えるのやめた!!
 ガバッと湯船から出ると、冷たいシャワーを浴び浴室を出た。ガシガシとバスタオルで髪と身体を拭き、着替えの服を探すべく辺りを見回せば、綺麗に畳まれたトレーナーと先ほど買ったと思しきブラとショーツが洗濯機の上に置かれていた。
 あぁ、橘はこういうのが好きなのねぇ。
 手に持ち上げたブラジャーのデザインを見て苦笑がもれる。
 意外と普通ね。
 淡いブルーの生地に白のレースがリボン状にクロスされたデザインのブラジャーは三十路の女が身につけるには可愛らしいデザインだった。
 そういえば、奴とはベージュのおばブラを見られた仲だった。しかも、盛大にバカにされた覚えもある。スーツケースに下着を一切入れなかったのは、あの時の意趣返しなのか?
 本当は、こんな可愛らしいブラを着けるのは抵抗がある。絶対に似合わないのも分かっている。ただ……
 萎えそうになる気持ちを奮い立たせ、勢いでブラとショーツを身につけ、トレーナーを着る。
 誰に見せるわけでもないしと、どうでもいい言い訳をしつつ、はたと気づく。

「えっ!? 下がない……」

 大き過ぎるトレーナーは、明らかに女性物ではない。完全に指先まで覆われた袖に太ももの半分以上が見えている裾の長さと、ゆる過ぎる首回り。極めつけは、ほんのり香る奴の匂い。
 間違えたのか? いや違う確信犯か……
 俗に言う『彼シャツ』状態の自分の姿を認め、絶叫していた。

「どうした!? あぁ……良く似合ってる。俺の服」

 勢いよく開け放たれた扉の先に、ニッと笑った橘の姿を見つけ、慌ててしゃがみ込む。

「さっさと私のパジャマ出しなさいよぉぉぉぉ!!!!」
「残念、似合ってるのに」

 奴の鼻先で扉をバタンっと力いっぱい閉めてやる。
 あぁぁ、ちょっとは良い奴だと思った私の気持ちを返せぇぇぇぇ……
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