豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「冬野、どうした? 珍しいな……」
「須藤課長お疲れさまです。ちょっと気晴らしに。ただ、もうそろそろ戻ろうかと思っていましたが。課長は、休憩ですか? 今日は朝からずっと外回りでしたよね」
「あぁ、あらかた回り終わって今帰って来た所だ。直帰しても良かったんだが、久々に残務整理でもしようかと。いつもサポート役のお前達に任せてばかりだし、たまには俺もやらないとな」
「残務整理ですか? 終わってます……。あらかた処理済みですし、課長の補佐役は皆、定時で帰れるくらいの仕事しか残っていません」
「まさか、この繁忙期にか?」
「……はい」
額を抑え項垂れる課長を前に苦笑が漏れそうになる。
上層部との日々の会議から大手お得意様への訪問、果ては部下の尻拭いまでこなさなければならない課長の多忙さは、彼の補佐についていれば嫌でもわかる。膨大な仕事量を円滑に進めるための補佐役である。日々舞い込む契約に関する書類処理や細々とした調べ物など、課長が持ち込む仕事の残務整理は補佐役が全て行うのが当たり前だ。彼が残務整理を手伝う必要などない。でなければ、補佐役がいる意味がない。
ただ、自分の仕事の範疇を超えて手を差し伸べてくれる課長の優しさに大勢の者が救われているのも事実だった。役職が上がっても、変わらない部下想いの姿勢こそが大勢の者達から慕われる所以《ゆえん》だろう。
威張り散らす事もなければ、上の者に媚びへつらうこともない。膨大な量の仕事を抱えながらも、部下への気配りも忘れない。適材適所、仕事の振り分けも見事で、上手く部下を動かすのもお手のもの。部長の椅子も間近と言われているのに偉ぶる素振りもない。同期ながら出来た人だと思う。
「ふふふ……。課長も久々にのんびり出来るのでは有りませんか? 課長もここのところ残業続きだったじゃ有りませんか。定時で上がれる時くらい、ハメを外さない程度にアフター六を満喫するのも気晴らしになりますよ」
「そうかぁ……、なんか悪い気がしてなぁ。繁忙期なのに遊び歩いていたら、下に示しがつかないというか」
「真面目過ぎますよ。遊びも日々の活力です」
「ははっ! 仕事の鬼の冬野が言うなら確かか。じゃあ、付き合えよ!」
「はっ!?」
「俺の補佐役は、皆定時で上がれるんだよな。だったら冬野も定時上がりだろ?」
「はぁ、まぁ……」
急に砕けた調子で話し出した課長に面食らう。
「じゃあ、飲みに行くぞ!」
「えっ!? いやぁ、飲みに行くのは……」
「この後、誰かと予定が入っているのか?」
「いいえ。特には……」
「じゃあ、決まりな! 言い出しっぺは、冬野なんだから付き合えよ。俺より、お前の方が気晴らしが必要だろうが」
「えっ! あっ……」
私の頭をポンポンと叩き、手を振り課長が去っていく。本当、相変わらず優しい……
今のやり取りが全て課長の手の内だった事に気づき笑いが込み上げる。
「ふふっ、本当、心配ばかりかけてダメダメよね」
今日くらい課長の優しさに甘えてもいいだろうか?
椅子に座り直し、夕闇に沈んだ景色を見つめる。ガラス窓に映った自分の顔は、冷えきったコーヒーの味と同じように酷いモノだった。
「須藤課長お疲れさまです。ちょっと気晴らしに。ただ、もうそろそろ戻ろうかと思っていましたが。課長は、休憩ですか? 今日は朝からずっと外回りでしたよね」
「あぁ、あらかた回り終わって今帰って来た所だ。直帰しても良かったんだが、久々に残務整理でもしようかと。いつもサポート役のお前達に任せてばかりだし、たまには俺もやらないとな」
「残務整理ですか? 終わってます……。あらかた処理済みですし、課長の補佐役は皆、定時で帰れるくらいの仕事しか残っていません」
「まさか、この繁忙期にか?」
「……はい」
額を抑え項垂れる課長を前に苦笑が漏れそうになる。
上層部との日々の会議から大手お得意様への訪問、果ては部下の尻拭いまでこなさなければならない課長の多忙さは、彼の補佐についていれば嫌でもわかる。膨大な仕事量を円滑に進めるための補佐役である。日々舞い込む契約に関する書類処理や細々とした調べ物など、課長が持ち込む仕事の残務整理は補佐役が全て行うのが当たり前だ。彼が残務整理を手伝う必要などない。でなければ、補佐役がいる意味がない。
ただ、自分の仕事の範疇を超えて手を差し伸べてくれる課長の優しさに大勢の者が救われているのも事実だった。役職が上がっても、変わらない部下想いの姿勢こそが大勢の者達から慕われる所以《ゆえん》だろう。
威張り散らす事もなければ、上の者に媚びへつらうこともない。膨大な量の仕事を抱えながらも、部下への気配りも忘れない。適材適所、仕事の振り分けも見事で、上手く部下を動かすのもお手のもの。部長の椅子も間近と言われているのに偉ぶる素振りもない。同期ながら出来た人だと思う。
「ふふふ……。課長も久々にのんびり出来るのでは有りませんか? 課長もここのところ残業続きだったじゃ有りませんか。定時で上がれる時くらい、ハメを外さない程度にアフター六を満喫するのも気晴らしになりますよ」
「そうかぁ……、なんか悪い気がしてなぁ。繁忙期なのに遊び歩いていたら、下に示しがつかないというか」
「真面目過ぎますよ。遊びも日々の活力です」
「ははっ! 仕事の鬼の冬野が言うなら確かか。じゃあ、付き合えよ!」
「はっ!?」
「俺の補佐役は、皆定時で上がれるんだよな。だったら冬野も定時上がりだろ?」
「はぁ、まぁ……」
急に砕けた調子で話し出した課長に面食らう。
「じゃあ、飲みに行くぞ!」
「えっ!? いやぁ、飲みに行くのは……」
「この後、誰かと予定が入っているのか?」
「いいえ。特には……」
「じゃあ、決まりな! 言い出しっぺは、冬野なんだから付き合えよ。俺より、お前の方が気晴らしが必要だろうが」
「えっ! あっ……」
私の頭をポンポンと叩き、手を振り課長が去っていく。本当、相変わらず優しい……
今のやり取りが全て課長の手の内だった事に気づき笑いが込み上げる。
「ふふっ、本当、心配ばかりかけてダメダメよね」
今日くらい課長の優しさに甘えてもいいだろうか?
椅子に座り直し、夕闇に沈んだ景色を見つめる。ガラス窓に映った自分の顔は、冷えきったコーヒーの味と同じように酷いモノだった。