大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 当然ながら、自席のモニターも前夜から引き続いてフル稼働だ。
 席に座る者をぐるりと取り囲むように並ぶモニター群には、作業用画面のほかに、フライトレーダーや気象状況、さらには搭乗するお客様の情報をウォッチするモニターなどもある。
 さっそく自席で業務を開始してしばらく、十時ころに先輩の瀧上(たきがみ)も出社した。彼も引き継ぎを終え、美空の隣席に腰を下ろす。

「昨日、木崎(きさき)が指摘した搭載重量急変の件、確認して正解だったよ。オーケストラの団員が集団移動していた」

 昨日、出発予定のある便で搭載荷物の重量が通常値を超える数値を叩き出していた。
 想定した重量を逸脱すれば、燃料の量や機体の重心位置を再計算する必要が生じる。
 超過した重量そのものはわずかだったが看過できず、退勤時間ギリギリまで原因を探っていたのだった。

「あ、楽器が原因だったんですね。それで滝上さん、燃料はどうなりました?」
「もちろん調整して飛ばしたよ。ダイバートせずにすむギリギリの量だった。木崎の完璧主義に救われたな」
「それくらい、わたしでなくても確認しますよ」

 そう返しながらも、悪い気はしない。昨日も無事に安全運航を守ったのだと思える。
 笑って応じた瀧上は三十三歳の独身で、太い眉と大きな口が特徴的な、野性味を感じる顔立ちをしている。
 がっしりした体躯だが、気安い口調のおかげで威圧感はない。美空にとっても頼りがいのある先輩だ。
 そして、美空が運航支援者としてサポートをするディスパッチャー(運航管理者)でもある。
 
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