大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 ディスパッチャーになるには、国家資格を取らなければならない。
 エアプラス社ではさらに、社内試験にも合格して初めてディスパッチャーの業務に就くことができる。
 美空もまた、ディスパッチャーになる日を夢見て勉強中だ。責任も重くハードワークには違いないが、やりがいがある。
 ディスパッチャーの主な業務のひとつは、安全かつ効率的に飛行機が飛ぶためのフライトプラン(飛行計画書)の作成だ。
 作成するプランには、飛行ルートや高度、空路における気象の予測、搭載燃料の量なども含まれる。
 美空は、彼らが正確な判断をするための情報を揃える。ときには、美空からルート変更などの提案をすることもある。
 飛行計画が承認されるとその便は晴れて飛べるが、仕事はまだ終わらない。
 飛行機が無事に離陸し、高度を上げてその管制区域がグランド、タワー、と順に切り替わったのち、安定飛行に移行すると美空たちの出番だ。
 パイロットと通信し、その操縦を地上から見守り、ときには気象情報を提供し迂回などの提案もする。
 無事にお客様を運び終えるまで、気は抜けない。
 モニターにざっと目を走らせ、異常のないことを確認する。美空たちが担当するのは中・近距離の国際線だ。
 ここ、本社ビルのオペセンでは一日に八百便にものぼるすべてのフライトを管理している。
 ディスパッチャーが作成したフライトプランは地方空港にも送られ、それを元に飛行機が飛んでいるのだ。そのため、近距離路線だけでも相当な数を管理する必要があった。
 一件、飛行ルート上に積乱雲の発生が見られたので、パイロットに情報の提供と回避を提案する。
 ほかには大きなトラブルもなく、昼休憩を挟んで午後も業務に集中するうち、あっというまに終業時間になる。
 遅番の同僚に業務を引き継げば、ようやくほっと肩の荷が下りた。

「お疲れ。親父さんが来るの、今日だったか?」
「そうなんです。大切な話があるらしくて」
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