[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
文香をカフェBonBonの地下鉄入り口で下ろすと、私はアクセルを思わず強く踏み込み、自宅マンションへと車を走らせた。

同じマンションに住んでいる私たち兄弟。
仲が悪いわけではないけれど、頻繁に行き来するような関係でもない。特に、奥さんの美愛ちゃんと暮らす雅は、彼女との時間を何より大切にしている。

今夜は自分の部屋のボタンではなく、京兄ちゃんのいる7階を押し、エレベーターの中でなんとか冷静になろうと深呼吸した。
けれどその試みは虚しく、私は怒りに任せて玄関のチャイムを連打していた。


「いるなら、さっさと出てきなさいよ!」


ドアが開いた音に身構えると、そこに立っていたのは弟・雅だった。

京兄ちゃんは、テキーラを“味方”にしてバーのVIPで潰れていたらしく、他の王子たちに連絡が入って引き取られたという。


……はぁ? いいご身分なこと!


「あんたのせいで、あの子は今、ひとりで! ……こんな夜に、どんな気持ちで過ごしてるか、少しは想像しなさいよ!飲んだくれてる場合じゃないでしょ、クズ兄貴が!!」


私は早口で『兄ちゃんに話がある』と伝えたが、雅は『今夜はやめてくれ』とやんわり拒んできた。

ふーん、落ち着いたもんね、あんたは。
結婚して、ずっと想ってた“天使ちゃん”と幸せになってさ。

でもね、私は昔のあんたたちをよく知ってる。節操のない“お遊び”を繰り返してたことも、全部、知ってるのよ?


「私、ぜ〜んぶ記録してるから。よかったら日記、見せてあげようか?」


玄関先でそう言うと、雅の顔がピクリと動いた。――動揺してる。だって、ほんとのことだから。

夜のマンション、他人の目を気にしてか、雅は口ごもる。その隙を突き、私は強引に彼を押しのけてリビングへ突入した。

京兄ちゃんの靴がある。そして、見慣れない他人の靴も。
誰か、いる?

勢いよくリビングのドアを開けると、そこにはソファーに座る京兄と、その隣で彼を介抱している涼介の姿があった。

あぁ、いたのね。
おまけに、クズトリオのひとりまで揃ってるとは。

京兄、涼介、そして仁。
みんな一時は同じように女を弄んでたくせに、今じゃ結婚して落ち着いた“勝ち組”気取り。でもね、あなたたちが関わった女性たちの名前、全部私の記録に残ってるのよ?
どんな悪態をつかれたかも、ね。

そんな私の視線を感じたのか、京兄ちゃんが呆れたように、でも気の抜けた口調で言った。


「おぉ、珍しいな。おまえがここに来るなんて」


――カチン。


「そうやって、いつまでもフラフラして……っ!」


怒りが、私の胸から一気に噴き出す。


「あの子はね、兄ちゃんが適当に遊んで捨てていいような子じゃないのよ!どこまで女を舐めてるの!? このクズ兄貴!!」


雅が慌てて止めに入るけれど、そんなの関係ない。今の私は、止まらない。
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