叶わぬ彼との1年先の縁結び

ep.2 彼の好きな人

「俺は……2年前に別れた恋人をまだ忘れられないでいる」

三雲さんは静かに話し始めた。

「彼女とは大学時代に知り合って、それから6年ほど付き合っていた」

三雲さんは現在28歳だと言った。私の4つ上だ。そうすると彼が大体20歳から26歳までお付き合いをしていたことになる。

「別れたのは、家同士の確執が原因だと言える」

「父親同士の仲が凄まじく険悪で、付き合い始めた当初から何かにつけて反対されていた。彼女との事は別だろうと、どれだけ掛け合っても、まったく聞く耳すら持ってもらえなかった……」

「諦めたくなくて、仕事で結果を出したら結婚を認めてくれと頼み込んだ。それだけは聞いてくれたんだ」

「ひどいんだぞ、ウチの社長。条件は1つじゃなくて、いくつも用意してきた。毎年の営業成績首位は当然。最年少で課長に昇進。新規サービスの提案とそのヒット。そして新規事業の立ち上げ。……まだ他にもあったな」

その頃のことを思い出したのか、苦々しくも、どこか誇らしげな顔をしていた。

でも、それはすぐに(かげ)りへと変わってしまった。

「2年前、条件を達成して、ようやく親父は渋々うなずいた。すぐに彼女に伝えに行ったんだ。……そこで、別の男と婚約が決まったと聞かされた」

(そんなことが……)

でも、彼女の方にも何か事情があったのかもしれない。

「あの時、彼女の家の事業も上手く行ってなくて、支援してくれた先の息子との政略結婚だったよ」

彼は溜息を1つこぼすと、その端正な顔を苦悩の表情に歪ませた。

「それっきりだ……それきり会ってない。連絡も取れなくなった。家同士の確執がなければ早く結婚できたはずなのに。支援が可能だったかもしれないのに……と毎日のように悔やんでいたよ」

「それからは彼女の事を考えないように、さらに仕事に没頭した。新部署に課長として配属されたばかりだったのもあってなおさら」

三雲さんいわく、部長に昇進したのは半年前とのことだった。

「それでも、彼女のことを思い出さない日はなかったよ。自分でも情けないけど、ずっと忘れられなかった。……現在(いま)も。でもこのままではダメなことも……わかってる」

「本当に最低な頼み事だと自覚してる。……紗雪さん。俺と婚約して下さい。そして、あと1年だけ、彼女を想うことを許して欲しい」
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