暁に星の花を束ねて
「表向きには病欠ということにしておいた。要求どおり、佐竹蓮はここにはきていない」

少名彦隼人は重々しく言葉を吐いた。
その隼人を楽しむかのように宗牙が口を開く。

「光栄だ。あやつはちょいと厄介者なんでな。あの男の視線ひとつで、官僚たちの舌がもつれると聞いている。ここにいないのは、実に快いな」

「ああ、あの男の言葉は刃だ。だからこそ、抜かせなかったのだろう?」

同行させていない部下を思い出し、隼人の瞳が笑った。

「……だが、奴がこの場にいたら、この茶番も少しは引き締まっていただろうよ」

宗牙の口元がわずかに吊り上がった。
その瞳は冷めきっている。

「ふん……。それにしても、帝国の巨艦が我ら辺境の囁きに耳を傾けてくださるとは。時代も変わったものだな」

「……話を進めよう」

宗牙の笑みが、わずかに深くなる。

「単刀直入に申し上げよう。御社が保持している対ナノ侵蝕中和酵素。その実用データを、我々と共有していただきたい」

「なに?」

「その代償として、南アジアブロックにおけるバイオ資源利権の一部移譲を約束しよう」

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