暁に星の花を束ねて
宗牙は低く笑う。

「少名彦家の嫡男が旧体制を継がぬと見せかけて、逆に新秩序を持ち込む。……いいじゃないか、腐った組織には衝撃療法が必要だ」

「一石二鳥、ですね」

「いや、三鳥だよ。凛翔がCEOの椅子を手にすれば、あとは……」

宗牙はそこで言葉を止めた。

だが、続きは明白だった。

凛翔はただの盾であり、囮であり、切り札。
そして、都合よく燃え尽きる捨て駒である。

「ところで。お礼の手紙とやらは準備できたのか」

「ええ。誠意ある文面に仕立てました。彼女が開けば、セクションD事件の座標に通じる鍵が作動する仕掛けも同時に。彼女は必ず反応する。そしてその反応は、凛翔の心に火をつけるでしょう。けれどその火が導くのは、光ではなく、燃え尽きた灰の底です」

宗牙の声には上品な毒が混じっていた。

まるで獲物が檻に入るのを待つ蛇のように。

あるいは己の運命に気づかぬまま舞台に立たされる若獅子を、観客席から眺める老人のように。

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