暁に星の花を束ねて
赫焔に揺らぐ影

灰の導火線


商談が終わった夜、湾岸の風は重たく、どこか潮と鉄の匂いを含んでいた。

その夜気を切り裂くように、一つの塔が黒々とそびえ立っている。

その頂。

『赫焔の間』に、紅蓮院宗牙の姿があった。

銀糸のような煙が揺れていた。

それは紅蓮院宗牙の口元から吐き出された煙草の白だった。

「よく踊ってくれる。血筋のわりに素直で、使いやすい」

静かに笑うその横顔を、暁烏真澄はちらと横目で見やる。

GQTが所有する東京湾岸のリゾートタワー。
今夜も政(まつりごと)の香りが濃厚に漂っていた。

「踊らされていると気づいていないのが、幸運か不幸か……」

暁烏は手元のデバイスを滑らかに操作しながら、ほとんど呟くように云う。

ホログラムには少名彦凛翔が新たに立ち上げた企業、ネクサリアの事業概要が映し出されていた。

「カオス・カリクス再利用計画。SHTにとっては火種になりかねませんよ。佐竹はまず間違いなく潰しにかかるだろうな」

紅蓮院は天井を仰ぎ、鼻で笑った。

「そしてそれは的中していた、ということだな」

「ええ。予測通り。佐竹は必要経費という言葉に反応し、商談は決裂しました。凛翔は……想像以上に動揺しましたね。佐竹の怒りに、自分が何を壊したのかすら気づいていなかったようです」

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