暁に星の花を束ねて
文章の隙間でも数式の抜けでもない。
偶然生まれるはずのない、座標を持った空白。
まるでそこに「意味がある」かのようだ。


(この配置……まるで……)


彼は息を呑んだ。


「……暗号?」


片岡は画面に浮かんだ意味不明な空白配置と、ねじれた数式を見つめたまま、低く呟いた。

一般研究員はもちろん、葵も、戦略部門の誰も理解できないだろう。

いや。

佐竹蓮の側にいた片岡一真でさえなければ、決して気づけなかった類の、狂気じみた戦略暗号だった。



(……戦略部門の、内部用暗号……!?)



片岡の心臓が跳ねた。


この構造。
空白の配置。
一見意味のない文字化け。
それらすべてが──


(部長が非常時のために使う、三重暗号方式!!)


それは片岡が数年前、死線の作戦中に一度だけ見たもの。
佐竹が「おまえだけ読めればいい」と云っていた特異な暗号化形式。

片岡の指が硬く強張る。



(佐竹部長は、おれと星野さんが、この端末を開くことを最初から予測していたのか……?)



背筋に冷たいものが走った。
圧倒的な冷静。
未来予測。
そして、覚悟。


片岡は、あの法則を思い出しながら定められた順に指を滑らせていった。

そして最後。

中央の反転キーに触れた瞬間、画面が黒く切り替わった。



そこに現れたのは──


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