暁に星の花を束ねて


「……これ、企業内通達フォーマット……正式な指示書です!!」

片岡の言葉に、葵は息を呑んだ。

その瞬間。

ピッ──

画面が閃き、電子音がラボに響いた。



【自動分配 A-Omega 起動】
【戦略統括本部 非常時権限委譲データを送信します】
【送信先:CEO/全理事/各部門統括/特別監査局】



片岡の端末に通達バイブ。
同時に壁のモニター、ラボのPC、サーバーランプまでもが一斉に点灯する。

「まさか……! 佐竹部長、これは……!」

それは単なる指示書ではなかった。

佐竹蓮が不在の瞬間に全社へ晒すため仕掛けていた

『非常時A-Omega 緊急権限委譲』だった。

端末から放たれたデータは光の矢のようにSHT全域へ拡散する。

・経営本部
・戦略部門
・調和部門
・研究部門
・法務
・財務
・警備局
・CEO室
・理事会専用ライン

すべての端末が同時に点灯した。


「これは本物の電子署名だ……!」
「佐竹部長が片岡課長に!?」
「非常時全権移譲!?」


本社がざわめきに包まれる。

葵は胸を抱き、震えた声を洩らす。

「……佐竹さん……戻れない可能性を……」

片岡は一度だけ目を閉じ、冷静に息を整えた。

「星野さん。部長は戻る前提で、この爆弾を仕掛けています。
生きて帰る気で、全てを託したんです」

葵の瞳に光が戻る。

片岡は端末を握りしめ、静かに宣言した。

「……作戦を開始します。
 佐竹蓮奪還、最優先。全戦略部門、非常時体制へ移行」

葵は涙を拭い、強く頷いた。

「佐竹さんを取り戻しましょう。今まで、そうしてくれていたように」

ラボの空気が一気に張り詰める。

この瞬間をもって、片岡一真を指揮官とする佐竹蓮救出作戦が正式に動き出した。

片岡は端末を抱え、戦略統括本部フロアへ駆け戻る。

彼に託されたのはただ一つ──

行方不明となった戦略部長の「居場所」を突き止める
こと。



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