暁に星の花を束ねて
「──遅い」

彼の手が敵の手首を掴み、骨が軋む音が響く。

悲鳴をあげた黒装束が崩れ落ちるのと同時に、別の影が葵の背後に迫った。
布で口を塞がれかけ──

「っ!?」

次の瞬間、葵の視界が揺れた。

佐竹の片腕が彼女の腰を強く抱き寄せ、そのまま回転するように床へ伏せさせる。
背後から伸びてきた布は空を切り、佐竹の蹴りが襲撃者の顎を砕いた。

「立つな。ここにいろ」

低く命じる声。
葵を床に庇いながら、彼は次の一人に襲いかかる。

紅装束が刃を振り上げた。

だがその瞬間、佐竹の視線が鋭く閃き、会場の照明パネルを蹴り落とした。
眩しい光と落下音に敵がひるむ。
その隙を逃さず、佐竹は襟首を掴んで床に叩きつけた。

息を詰める葵の横で、敵は一人、また一人と沈んでいく。

「撤退!」

襲撃者の残りが叫ぶ。
人波の向こうへと影は消え、再び混乱だけが残った。

葵は震える膝を押さえながら、目の前の佐竹を見上げた。
彼はすでに立ち上がり、周囲を警戒している。

「……無事か」

手袋ごしに差し出された手。
葵は震えながらも、その手を取った。

ほんの一歩遅れていたら、もう自分はいなかった。
その現実が心臓を鷲掴みにする。

(なに……なんなの、これは……)

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