暁に星の花を束ねて
「佐竹部長が詳しく案内してくださって……本当に為になりました」
「それは良かったな」
「とても素敵でした」

ふいに漏れた一言に葵自身が口元を手で押さえた。

云ってしまってから気づいた、という表情。
佐竹は何も答えなかった。
だがその視線は一度だけ、彼女の方へと静かに向いた。

「部長はやめろ」

唐突な言葉に、葵はきょとんとした。

「え?」
「外でそれは不用心だ」
「あっ……す、すみません……」

慌てて身を乗り出す葵に佐竹はひと呼吸おいてから、低く続けた。

「社外と社内で呼び方を変えるのも混乱のもとになる。佐竹で統一するように」

一瞬、葵の心臓がどきりと鳴った。

ただの名字に過ぎないのに、彼から求められると不思議な重みを帯びる。
口に出した瞬間、自分と彼との距離がほんの少し縮まってしまうようで……。

舌の先に熱を感じながら、勇気を振り絞る。

「そ、それでは……あの……佐竹さん」

まだ言い慣れない呼び方を、そっと口に出す。
胸の奥が不思議とざわめいた。

そして佐竹の目元がほんの少しだけ緩んだ――ように見えた。

それ以上何も云わなかった。



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