暁に星の花を束ねて

消された真実

後日──

展示会場での爆発と混乱は、報道番組で数分触れられただけだった。

「小規模な過激派による騒動」
「死者なし、負傷者軽微」

事実はそれだけに矮小化され、もう別のニュースに取って代わられていた。

(……あんな大事件だったのに……?)

葵は画面を見つめながら、胸の奥でざらついた違和感を抱えていた。
目の前で火花が散り、紅装束に腕を捕まれ、息を塞がれかけた恐怖。
佐竹が放った冷徹な声。
玉華という、美しくも凄絶な女性。
どれもが現実だったはずなのに、世間の目には存在しないかのように扱われている。

(報道されてない……)

大勢の人々にとっては、ただの「小さな騒動」にすぎない。
だが葵にとっては、自分が標的になったという揺るぎない事実が胸に残り続けていた。

(……どうして? どうしてわたしなんだろう……)

問いは答えを得ないまま胸の奥で渦を巻き、紅茶の残り香と血の匂いが入り混じったあの日の記憶を、何度も呼び覚ましていた。

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