暁に星の花を束ねて
「騒ぎは最小限に抑えた。社外の耳に入る必要はない」

端的な言葉。
そこには、事件を縮小させたのは自分であるという確信が揺るぎなく滲んでいた。

片岡はわずかに眉をひそめた。

「……ですが、事実を歪めることに、いささか無理があるのでは」

「無理を通すのが戦略だ」

佐竹は端末から視線を上げない。

「敵の狙いは混乱だ。大きく騒げば奴らの思う壺になる」

返す言葉を飲み込んだ片岡は、わずかに目を伏せた。
正論であり、同時に不気味な冷徹さでもあった。

その時、佐竹がふと端末から視線を外し薄く笑みを刻んだ。

「連中、焦っているだろうよ。騒ぎになるはずが、何もない状況になっているんだからな」

吐き捨てるようでいて余裕を滲ませた声音。

皮肉と冷笑が混ざり合い、部屋の空気はさらに冷たく締め付けられる。

静寂が再び部屋を満たした。
書類を抱えた片岡の横顔に、一瞬だけ「人としてのためらい」が影を落とした。

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